判旨
裁判所は、基本的事実関係の同一性を害さない限り、公訴事実と異なる事実や適用法条を認定することができ、検察官の指定した罪名に拘束されない。食糧緊急措置令違反として起訴された事実を、同一性の範囲内で刑法の詐欺罪として認定し処断することは適法である。
問題の所在(論点)
検察官が食糧緊急措置令違反として起訴した事実に対し、裁判所が公訴事実の同一性を維持したまま、刑法の詐欺罪として事実認定および法適用を行うことの可否。
規範
裁判所は、基本的事実関係の同一性を害しない限り、公訴事実として摘示された事実とその態様において異なり、ひいては適用法条を異にする事実を認定することができる。また、裁判所は検察官が指定した罪名に拘束されるものではない。
重要事実
被告人は、市役所出張所に不実の申告をして家庭用主要食糧購入通帳の交付を受け、これを利用して配給所から主食等の不正配給を受けた。検察官はこれを食糧緊急措置令10条(不正受配の罪)に該当するものとして起訴したが、原審は、被告人が配給所係員を欺罔して主食等を騙取したという詐欺罪の事実を認定し、刑法を適用して被告人を処断した。
あてはめ
被告人が不実の通帳を用いて食糧の配給を受けたという基本的事実関係は、起訴事実と原審認定事実の間で共通している。原審が「係員を欺罔して騙取した」と認定した事実は、起訴状記載の事実とその態様において差異はあるものの、基本的事実関係の同一性を害するものではない。また、食糧緊急措置令10条末段は、同条に当たる事実が同時に刑法の罪に当たる場合は刑法で処断すべき旨を規定しており、詐欺罪としての処断は法規の要請にも合致する。
結論
基本的事実関係の同一性が認められる限り、罪名を変更して認定することは適法である。したがって、本件で詐欺罪を適用した原判決に違法はない。
実務上の射程
訴因変更手続を経ずに裁判所が罪名を変更して判決できる限界(公訴事実の同一性)を示す。ただし、現行刑訴法下では被告人の防御権への配慮が重視されるため、本判決の法理を前提としつつも、事実態様の変化が被告人の防御に実質的な不利益を及ぼす場合には、訴因変更手続が必要になると解するのが答案作成上の実務的運用である。
事件番号: 昭和25(れ)1240 / 裁判年月日: 昭和25年12月1日 / 結論: 棄却
他人名義の転出証明書を利用し、同人等と自己の同居人の如く虚偽の届出をし、自己の主食配給通帳にその旨の登載を受け食糧配給公団の係員に対し、恰も正当な同居人の配給を受けるものの如く装い、係員を欺きその配給を受けたときは詐欺罪が成立し食糧緊急措置令第一〇条本文の適用がないと解すべきである。