判旨
食糧緊急措置令の規制対象となる配給行為に関連する欺罔行為であっても、刑法246条1項の詐欺罪の構成要件を充足する場合には、同令ではなく詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
食糧の配給に関連する不正行為について、特別法である食糧緊急措置令10条が適用されるにとどまるのか、それとも刑法246条1項の詐欺罪が成立するのか。
規範
特定の行政取締法規(食糧緊急措置令等)が適用される場面であっても、その行為が他者を欺いて財物を交付させるという詐欺罪の構成要件を充足する限りにおいて、刑法246条1項が適用される。行政上の規制違反にとどまらず、個別財産に対する侵害が認められる場合には、刑法上の詐欺罪が成立する。
重要事実
被告人は、食糧の配給に関連して「配給所販売原簿」に不実の記載をする等の手段を用いた可能性があるが、具体的な欺罔行為の内容や交付させた財物の詳細は判決文からは不明である。原審は、被告人の行為が刑法246条1項の詐欺罪に該当すると判断した。これに対し弁護人は、食糧緊急措置令10条本文が適用されるべきであり、詐欺罪の成立を認めた原判決には憲法違反や法の適用誤りがあると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、過去の累次の判例を引用し、被告人の行為が詐欺罪の構成要件を具備する以上、食糧緊急措置令10条本文の適用はないと判断した。また、証拠調べの手続きにおいて「配給所販売原簿」が適法に読み聞かされており、事実誤認の主張についても、食糧配給公団とその前身である食糧営団は社会的に同一視されるため、判決に影響を及ぼす誤りはないとした。したがって、構成要件に該当する以上、詐欺罪の成立を妨げる事情はないと解される。
結論
被告人の所為は刑法246条1項の詐欺罪を構成し、食糧緊急措置令10条本文は適用されない。
実務上の射程
行政法規による統制が及ぶ領域(配給制度や公的な給付制度)における不正行為であっても、一般的構成要件である詐欺罪の要件を満たす限り、同罪が優先的または併置的に適用されることを示す。答案上は、特別法による処罰が予定されている場面で、刑法の一般罪名の成否が問題となる際の法条競合・罪数の議論において、判例が詐欺罪の成立を広く認める傾向にあることを裏付ける資料として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)48 / 裁判年月日: 昭和26年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不正な手段で配給品を受領した場合、特別法である食糧緊急措置令ではなく刑法上の詐欺罪が成立し、公定代金を支払ったとしても財産的損害が認められ同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、世帯主B及びC名義の配給通帳を不正に使用し、醤油合計4斗5合(第一審および原審では4斗5升と誤記)を騙取した。被告…
事件番号: 昭和26(れ)1069 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】米麦の不正受配行為について、食糧緊急措置令に罰則がある場合でも、刑法に正条があるときは詐欺罪が成立し、同罪をもって処断される。 第1 事案の概要:被告人が米麦の不正受配を行った事案。当時施行されていた食糧緊急措置令には罰則規定が存在したが、同令10条には刑法に正条がある場合の適用関係に関する規定が…