判旨
食糧緊急措置令違反に該当する行為であっても、同時に詐欺罪の構成要件を充足する場合は詐欺罪として処断すべきである。また、食糧を詐取するに際して公定価格による代金を支払ったとしても、詐欺罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
食糧緊急措置令違反となる行為について詐欺罪が成立するか。また、公定価格相当の代金を支払って食糧の交付を受けた場合に、詐欺罪における「騙取」が認められるか(相当対価の支払いと詐欺罪の成否)。
規範
特別法上の罰則(食糧緊急措置令10条)に触れる行為であっても、刑法の詐欺罪の構成要件を充足する場合には、詐欺罪が成立する。また、詐欺罪における「財物」の領得とは、相手方を欺いて財物の占有を自己に移転させることを指し、その対価として相当な代金を支払ったとしても、交付の判断の基礎となる重要な事項について欺罔がある以上、詐取した事実に変わりはない。
重要事実
被告人は食糧を不正に入手する目的で相手方を欺き、食糧の交付を受けた。その際、被告人は当該食糧の公定価格に相当する代金を支払っていた。弁護人は、本件は食糧緊急措置令10条違反としてのみ処罰されるべきであり、かつ公定価格を支払っている以上、詐欺罪の「騙取」には当たらないと主張して上告した。
あてはめ
被告人が相手方を欺いて食糧の交付を受けた行為は、食糧緊急措置令の定める罰則に該当するのみならず、刑法の詐欺罪の構成要件を充足する。詐欺罪は、相手方が瑕疵なき意思決定をしていれば交付しなかったであろう財物を、欺罔行為によって交付させた場合に成立する。本件において、たとえ公定価格という相当な代金を支払っていたとしても、相手方が真実を知っていれば食糧を交付しなかったと認められる以上、財物の移転に向けられた欺罔行為と交付の間の因果関係は否定されず、詐取の事実を免れるものではない。
結論
公定価格による代金を支払ったとしても詐欺罪の成立を免れない。したがって、本件に詐欺罪を適用した第一審判決は正当である。
実務上の射程
詐欺罪における個別財産説の立場を前提に、財産的損害の有無を判断する際、相当対価の支払いの有無にかかわらず「その財物自体」の交付に着目して欺罔と交付の因果関係を肯定する実務上の指針となる。答案上は、交換的取引において代金が支払われている事案でも、欺罔がなければ交付しなかったといえる場合には、詐欺罪の成立を肯定する根拠として引用できる。
事件番号: 昭和26(れ)420 / 裁判年月日: 昭和26年6月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧緊急措置令の規制対象となる配給行為に関連する欺罔行為であっても、刑法246条1項の詐欺罪の構成要件を充足する場合には、同令ではなく詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、食糧の配給に関連して「配給所販売原簿」に不実の記載をする等の手段を用いた可能性があるが、具体的な欺罔行為の内容や交付…