刑法第五五条が削除された後においては、いわゆる犯意の継続があつたからとて、それだけで数個の行為を一罪として処断しなければならないという理由はない。本件についてみれば、原審が認定しているように、各受配の度毎にそれぞれ別個の欺罔行為が認められる以上、たとえそれが一個の配給通帳に基き、継続した意図の下にくりかえされたものであつても、各受配行為ごとに一個の詐欺罪が成立するものといわなければならない。
一個の通帳に基く数個の詐欺受配行為と罪数
刑法55条(削除前),刑法45条,刑法246条1項
判旨
不正な手段で係員を欺罔して配給を受けた場合、公定代金を支払っていても刑法上の詐欺罪が成立する。また、継続した意図に基づき同一の配給通帳を用いたとしても、各受配行為ごとに別個の欺罔行為が認められるならば、併合罪として処理すべきである。
問題の所在(論点)
1. 不正手段により配給を受けた場合に、公定代金を支払っていても詐欺罪が成立するか。 2. 同一の配給通帳に基づき継続的な犯意の下で繰り返された受配行為の罪数関係はどうなるか。
規範
1. 欺罔行為によって財物の交付を受けた以上、代金(公定価格)の支払という対価を提供していても詐欺罪(刑法246条1項)は成立する。 2. 犯意の継続がある場合でも、各行為が独立した欺罔行為を伴うときは、数個の詐欺罪が成立し併合罪(同法45条前段)となる。
重要事実
被告人は、米の配給を受けるにあたり、配給係員を欺罔して主要食糧の配給を受けた。被告人は、一個の配給通帳に基づき、継続した意図の下で繰り返し受配行為を行っていたが、各受配の都度、欺罔行為が行われていた。弁護人は、特別法(食糧緊急措置令)の適用に留まるべきであること、代金を支払っているため詐欺罪は不成立であること、および一罪として処断すべきであることを主張して上告した。
あてはめ
1. 詐欺罪の本質は、欺罔によって相手方に財物交付の意思決定をさせた点にある。本件において被告人が不正手段を用いて係員を欺いた事実は、配給制度上の適正な交付判断を誤らせるものであり、公定代金の支払という対価の有無は、既に成立した詐欺罪の成否を左右しない。 2. 刑法55条(連続犯)の削除後、単なる犯意の継続のみで一罪とみなす根拠はない。本件では、各受配のたびに個別の欺罔行為が認められる以上、各行為は独立性を有しており、それぞれが一個の罪を構成する。
結論
被告人には各受配行為ごとに詐欺罪が成立し、それらは併合罪の関係に立つ。上告棄却。
実務上の射程
詐欺罪における「財産上の損害」の考え方において、相当対価を支払っていても、その財物を交付するかどうかの判断基礎となる重要な事実に偽りがあれば詐欺罪が成立することを示す。また、罪数論において、単一の計画や継続的犯意があっても、実行行為(欺罔)が個別になされる限り併合罪となるという原則を確認する実務上重要な判例である。
事件番号: 昭和25(あ)2586 / 裁判年月日: 昭和26年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧緊急措置令違反に該当する行為であっても、同時に詐欺罪の構成要件を充足する場合は詐欺罪として処断すべきである。また、食糧を詐取するに際して公定価格による代金を支払ったとしても、詐欺罪の成立を妨げない。 第1 事案の概要:被告人は食糧を不正に入手する目的で相手方を欺き、食糧の交付を受けた。その際、…