家族に対する殺人5件,殺人未遂1件の事案につき,無期懲役の量刑が維持された事例(反対意見がある。)(岐阜中津川家族殺害事件)
刑法9条,刑法199条,刑法203条,刑訴法411条2号
判旨
5名を殺害し1名に重傷を負わせた事案において、動機に一定の酌むべき事情があり、親族である遺族の一部が死刑回避を望んでいる等の事情がある場合、死刑の選択を回避し無期懲役とした一審判決を維持した原判決は、刑の量定が甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
問題の所在(論点)
5名殺害という極めて重大な結果が生じた事案において、心中という動機や親族間の事情を考慮し、死刑を選択しなかった一審および二審の量刑判断が、著しく正義に反するほど不当といえるか。
規範
死刑の選択については、犯行の性質、動機、態様(特に殺意の強さや残虐性)、結果の重大性(特に殺害された被害者の数)、被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状を総合的に考慮し、罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合に許される(永山判決の枠組み参照)。また、上告審が量刑不当を理由に原判決を破棄するには、その量刑が甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合に限られる(刑訴法411条2号)。
重要事実
被告人は、実母による妻への長年の執拗な嫌がらせに悩み、実母殺害と心中を決意。平成17年、自室で就寝中の長男(33歳)と実母(85歳)をネクタイで絞殺。その後、近くに住む長女(30歳)と、その子である孫2名(2歳および生後20日)を自宅に連れ出し、次々と絞殺あるいは圧迫死させた(計5名殺害)。さらに長女の夫をも包丁で刺したが殺害に至らなかった。被告人は犯行直後に自殺を図っており、前科はなく、57歳まで真面目に勤務していた。親族である遺族(被告人の弟や妻)は死刑回避を求めていた。
事件番号: 平成7(あ)1084 / 裁判年月日: 平成11年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度およびその執行方法は憲法13条、36条に違反しない。また、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性に照らし、被告人の事情を考慮しても死刑の科刑がやむを得ない場合は、これを是認すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、交際相手Aが結婚に消極的になったことに憤激し、路上でAを大型ハンマーで多数回…
あてはめ
結果の重大性(5名殺害)や、計画的かつ非情な犯行態様、独善的な動機に鑑みれば、本件は死刑選択を十分考慮すべき事案である。しかし、実母殺害の動機には長年の苦悩という経緯があり、子や孫の殺害も「道連れにした方が良い」という歪んだ心情に基づく心中目的であった点で、全く斟酌の余地がないわけではない。また、被告人に前科がなく更生の可能性(再犯の恐れがないこと)が認められること、被告人の弟や妻といった近親者が死刑回避を望んでいること、被告人が深く反省していること等の有利な事情も存在する。これらの事情を総合すれば、極刑に処するほかないとまでは断定し難い。
結論
被告人を無期懲役に処した一審判決を維持した原判決について、その刑の量定が甚だしく不当であるとは認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
多数の被害者(5名)を出した殺人事件であっても、親族間の葛藤に基づく無理心中という特殊な事情があり、かつ近親者の処罰感情が緩和されている場合には、無期懲役を選択した下級審の判断が維持される余地があることを示す。死刑選択における「結果の重大性」と「犯行の経緯・情状」の比較衡量における一指針となる。
事件番号: 平成1(あ)1329 / 裁判年月日: 平成8年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択に際しては、犯行の罪質、動機、態様、結果等の諸要素を総合的に考慮し、その罪責が誠に重大であって、死刑の科刑がやむを得ないものと認められる場合には、これを是認することができる。 第1 事案の概要:被告人は、隣人夫婦が自分の軽トラにごみを捨てたと思い込み、さらに自分の畑に大量のごみが投棄され…
事件番号: 昭和52(あ)1536 / 裁判年月日: 昭和54年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の合憲性を前提とした上で、犯行の動機、態様、結果の重大性、被害感情、および被告人の前科等を総合的に考慮し、極めて凶悪な犯行については死刑の適用もやむを得ないとする判断を示した。 第1 事案の概要:強盗殺人等の罪により無期懲役刑に処せられ、仮出獄中であった被告人は、家出した妻の行方を知っていると…
事件番号: 平成24(あ)736 / 裁判年月日: 平成26年10月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑選択の当否が争われた事案において、犯行の計画性、態様(執拗性・残虐性)、結果の重大性(3名殺害)、及び身勝手な動機を重視し、被告人の境遇への同情の余地や前科がない等の酌量要素を考慮しても、死刑を維持した原判決を是認した事例。 第1 事案の概要:被告人は、同居する義母の執拗かつ激しい非難から逃れ…