金融機関Xらが,Aの委託を受けた金融機関Yから,Yをいわゆるアレンジャーとするシンジケートローンへの参加の招へいを受けてこれに応じ,Xら及びYのAに対するシンジケートローンが組成・実行された場合において,上記招へいに際してYからXらに交付された資料の中に,資料に含まれる情報の正確性・真実性についてYは一切の責任を負わず,招へい先金融機関で独自にAの信用力等の審査を行う必要がある旨記載されていたものがあるとしても,Aの代表者が,Yの担当者に対し,シンジケートローンの組成・実行手続の継続に係る判断を委ねる趣旨で,AのいわゆるメインバンクがAに対し外部専門業者による最新の決算書の精査を強く指示した上その旨を上記メインバンクがいわゆるエージェントとなっていたシンジケートローンの参加金融機関にも周知させたという情報を告げたなど判示の事実関係の下では,Yは,Xらに対し,信義則上,シンジケートローン組成・実行前に上記情報を提供する義務を負う。 (補足意見がある。)
金融機関Yをいわゆるアレンジャーとするシンジケートローンへの参加の招へいに応じた金融機関Xらに対しYが信義則上の情報提供義務を負うとされた事例
民法1条2項,民法709条
判旨
シンジケートローンのアレンジャーは、契約関係にない参加金融機関に対しても、アレンジャー業務の遂行過程で入手した情報の提供義務を信義則上負い、これに違反した場合には不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
シンジケートローンのアレンジャーは、参加を検討する金融機関に対し、信義則上の情報提供義務を負うか。特に、免責条項が存在し、かつ契約関係がない場合に不法行為法上の注意義務として認められるか。
規範
シンジケートローンのアレンジャーは、参加を招へいした金融機関との間に直接の契約関係がなく、かつ提供資料の正確性につき責任を負わない旨の免責条項があったとしても、信義則上、アレンジャー業務の遂行過程で入手した情報の提供義務を負う。その判断基準は、①当該情報が借主の信用力等の判断に重大な影響を与えるもので、②参加金融機関において自ら知ることが通常期待できず、③アレンジャーにおいて当該情報の提供が必要であることを容易に思い至るべき状況にあり、④借主に対する守秘義務違反等の支障がないこと、を要件とする。
重要事実
(1)石油卸売業者Aのアレンジャーとなった上告人は、被上告人らに対しシンジケートローンへの参加を招へいした。(2)参加案内資料には「情報は網羅的ではなく、参加金融機関が独自に審査を行う必要がある」との免責条項があった。(3)契約調印前、上告人はAの代表者から、メインバンクがAの決算書の粉飾を疑い、外部専門家による財務調査を強く求めている事実(本件情報)を告げられた。(4)上告人は本件情報を秘匿したまま融資を実行させ、後にAの粉飾が判明して経営破綻したため、被上告人らが損害を被った。
あてはめ
(1)本件情報は、メインバンクが外部調査を指示し、応じなければ融資継続を拒絶するという、Aの信用力の根幹に関わる重大な情報であり、被上告人らが知れば参加を取り止めるべき性質のものであった(①充足)。(2)本件情報は別件ローンに関与しない被上告人らが知ることは通常期待できず、Aも上告人に判断を委ねる趣旨で伝達していた(②充足)。(3)アレンジャーである上告人は、自ら提供した資料の前提を覆す本件情報の重要性を認識し、提供の必要性を容易に予見できた(③充足)。(4)A自身が上告人に判断を委ねている以上、守秘義務違反の問題は生じない(④充足)。したがって、上告人には信義則上の情報提供義務があるといえる。
結論
上告人は情報提供義務を怠ったものとして、被上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
実務上の射程
専門的知見を有する金融機関同士の取引であっても、アレンジャーという特有の地位に伴う情報の偏在がある場合には、信義則上の保護義務が肯定される。
事件番号: 昭和33(オ)265 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
宅地建物取引業者は、直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引するに至つた第三者に対して、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある。