他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に,被告人が共謀加担した上,更に暴行を加えて被害者の傷害を相当程度重篤化させた場合,被告人は,被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負う。
共謀加担後の暴行が共謀加担前に他の者が既に生じさせていた傷害を相当程度重篤化させた場合の傷害罪の共同正犯の成立範囲
刑法60条,刑法204条
判旨
傷害罪の共同正犯において、途中から共謀加担した者は、加担前の先行者の暴行による傷害結果については因果関係を有しないため責任を負わず、自己の加担後の暴行により傷害を発生・寄与させた限度でのみ責任を負う。先行者の暴行によって被害者が抵抗不能な状態に陥っていることを利用して暴行に及んだとしても、それは単なる動機や契機にすぎず、加担前の傷害結果について刑事責任を負う理由にはならない。
問題の所在(論点)
先行者の暴行により既に傷害結果が発生している場合に、途中から共謀加担した者が、加担前の傷害についても承継的共同正犯として刑事責任を負うか(刑法60条、204条)。
規範
傷害罪の共同正犯において、途中から共謀加担した者は、加担前の先行者の暴行によって既に生じていた傷害結果については、自己の共謀およびそれに基づく行為と因果関係を有しない。したがって、加担者は加担後の暴行によって傷害の発生に寄与した範囲でのみ傷害罪の責任を負い、加担前の結果について承継的共同正犯としての責任を負うことはない。
重要事実
先行者Aらは、被害者Cらに対し、顔面殴打や石での殴打、ドライバーで突くなどの激しい暴行を加え、流血・負傷させて車に押し込み本件現場へ移動した。被告人は、本件現場において、Cらが既に負傷し逃走・抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀し、角材や金属製はしご等を用いて先行者の暴行よりもさらに激しい暴行を加え、Cらの傷害を相当程度重篤化させた。原審は、被告人が先行者の暴行による結果を自己の犯罪遂行(制裁目的)の手段として積極的に利用したとして、加担前の傷害を含む全体について承継的共同正犯の成立を認めた。
事件番号: 昭和24(れ)293 / 裁判年月日: 昭和24年7月23日 / 結論: 棄却
既に共謀して強盜をした以上、かりに、所論のごとく他の共犯者の暴行の結果たる傷害について被告人に故意、過失がなかつたとしても被告人も、また強盜傷人罪について共同正犯の責を負わなければならないのである。(昭和二三年(れ)第二四九號同年六月一二日第二小法廷判決)
あてはめ
被告人が共謀加担した時点で、Cらは既にAらの暴行により負傷していた。被告人の加担後の暴行は、加担前に生じていた傷害結果(Cの骨折等)との間に因果関係を有しない。被告人が、Cらの抵抗困難な状態を利用して暴行に及んだ事実は認められるが、これは被告人の暴行の動機や契機にすぎず、加担前の結果について責任を負わせる根拠とはならない。もっとも、被告人は加担後に激しい暴行を加えて既存の傷害を相当程度重篤化させており、この加担後の寄与分については傷害罪の共同正犯責任を負う。
結論
被告人は、共謀加担後の暴行により傷害を重篤化させた限度で傷害罪の共同正犯としての責任を負う。加担前の結果まで含めて共同正犯の成立を認めた原判決には法令違反があるが、罪数や処断刑の範囲に影響せず、量刑も不当とはいえないため、上告は棄却される。
実務上の射程
傷害罪における承継的共同正犯を否定した重要判例である。答案上は、まず先行者の行為を「利用」したとしても、加担前の結果と後行者の行為との間に因果関係がないことを指摘し、承継的共同正犯の成立を否定する。その上で、後行者の加担後の行為が「傷害を重篤化」させたといえるかを事実から認定し、加担後の範囲でのみ傷害罪が成立すると論じるべきである。
事件番号: 昭和24(れ)1021 / 裁判年月日: 昭和24年7月16日 / 結論: 棄却
一 事前に共謀の事實がなくても共犯者がその相手方と意思の連絡の下に犯行に及んだ場合には共同正犯となること。そして被告人が暴行を加えなくても他の共犯者が暴行を爲した事實があれば強盜の共同正犯としての責任を負うことは夫々當裁判所の判例の示すところである。(昭和二三年(れ)第三五一號。同年七月二〇日第三小法廷判決。昭和二二年…
事件番号: 令和1(あ)1751 / 裁判年月日: 令和2年9月30日 / 結論: 棄却
1 他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,刑法207条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れない。 2 他の者が先行して被害者に暴行を加え,…