株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。 (補足意見がある。)
株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権
民法424条,会社法第5編第3章第2節第2款 株式会社を設立する新設分割
判旨
株式会社を設立する新設分割において、債務が承継されず異議手続も執れない債権者は、民法424条に基づき詐害行為取消権を行使できる。この場合、取消しの効力は会社の設立自体には及ばないが、債権保全に必要な限度で設立会社への権利承継を否定できる。
問題の所在(論点)
株式会社の新設分割が、民法424条(改正前)にいう「財産権を目的とする法律行為」として詐害行為取消権の対象となるか。特に、会社法上の債権者保護手続や無効の訴えとの関係が問題となる。
規範
新設分割は会社の組織に関する行為であるが、同時に財産権を目的とする法律行為でもあるため、直ちに詐害行為取消権の対象外とはならない。また、会社法810条の債権者保護手続の対象外とされ、かつ設立会社に債務が承継されない債権者は、保護の必要性が認められる。新設分割無効の訴え(会社法828条1項10号)が存在しても、詐害行為取消しの効力は相対的な財産回復にとどまり設立の効力に影響しないため、両者は併存し得る。
重要事実
債権回収会社である被上告人は、Aに対して約4億5500万円の保証債務に係る債権を有していた。Aは新設分割を行い、唯一の主要資産であった本件不動産(担保余力約3300万円)を新設された上告人に承継させたが、被上告人の債権は承継対象から外した。この結果、Aの資産は無価値に近い新設会社の株式のみとなり、被上告人は会社法上の債権者保護手続(810条)の対象にもならなかったため、本件分割の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
本件新設分割は、Aの唯一の引当て財産である本件不動産を別法人に移動させるものであり、実質的な責任財産の減少を招く財産処分としての性質を有する。被上告人の債権は新設会社に承継されず、会社法上の異議を述べる機会も与えられていない。このような立場にある債権者は、法的な救済手段として詐害行為取消権を行使する必要性が高い。取消しによって本件不動産の承継を否定しても、新設会社の存立自体が否定されるわけではなく、会社法が予定する組織法上の秩序を乱すものではない。
結論
新設分割において債務が承継されない債権者は、詐害行為取消権を行使できる。本件においても、詐害行為該当性を認め、被上告人の請求を認容した原審の判断は正当である。
実務上の射程
会社分割(新設分割・吸収分割)を悪用した債権者への「切り捨て」に対する救済法理として確立している。なお、平成26年会社法改正により、本判決の法理を反映した詐害行為的な会社分割に対する債権者の直接請求権(会社法759条4項等)が新設されたが、民法上の詐害行為取消権を排除するものではないため、現在でも実務上重要な射程を有する。
事件番号: 昭和41(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和42年6月29日 / 結論: 棄却
総債権者のための唯一の共同担保である債権の譲渡が、判示のような事情から債務の本旨に従つた弁済と同視しえず、かつ、他の債権者を害することを知りながらされたときは、右債権譲渡は債権者詐害行為にあたる。
事件番号: 平成21(受)708 / 裁判年月日: 平成22年10月19日 / 結論: 棄却
詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない。 (補足意見がある。)
事件番号: 昭和47(オ)1194 / 裁判年月日: 昭和49年9月20日 / 結論: 棄却
相続の放棄は、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならない。