詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない。 (補足意見がある。)
詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するか
民法424条,民訴法246条
判旨
詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は、取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない。したがって、訴訟の途中で被保全債権が交換的に変更されたとしても、それは単なる攻撃防御方法の変更にすぎず、訴えの提起による時効中断の効力は妨げられない。
問題の所在(論点)
詐害行為取消訴訟において、被保全債権の主張を交換的に変更することが、訴訟物である詐害行為取消権の変更(訴えの交換的変更)に当たるか。また、それにより民法426条(改正前)の除斥期間または消滅時効の中断効に影響が生じるか。
規範
詐害行為取消権は、債務者の一般財産を保全し、総債権者のために逸出した財産を回復させる制度であり、取消債権者の個々の債権の満足を直接目的とするものではない。したがって、同権利は取消債権者の有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではなく、一個の権利であると解される。ゆえに、被保全債権の変更は攻撃防御方法の変更にすぎず、訴訟物たる詐害行為取消権それ自体は当初の提訴時から継続して行使されているものとみなされる。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者Aに対し、B信用組合から譲り受けた連帯保証債務履行請求権である「甲債権」及び「乙債権」を有していた。Aは債務超過状態で、その持分不動産を受益者(上告人)に売却した。債権者は、まず「甲債権」を被保全債権として詐害行為取消訴訟を提起したが、別件訴訟での和解により甲債権が消滅。そのため、第1審の弁論準備手続において被保全債権を「乙債権」へ交換的に変更した。受益者は、乙債権を被保全債権とする取消権は既に消滅時効(2年)が完成しており、被保全債権の変更は訴えの交換的変更であって時効中断の効力は及ばないと主張した。
事件番号: 昭和61(オ)495 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 破棄差戻
抵当権の設定されている不動産について当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであり、詐害行為の後に弁済等によつて右抵当権設定登記が抹消されたときは、その取消による原状回復は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格賠…
あてはめ
詐害行為取消権は、総債権者のための一般財産確保を目的とする一個の権利である。本件において、債権者は提訴時点で既に甲・乙両債権を有しており、当初は甲債権を主張の根拠としていたが、後にこれを乙債権に差し替えた。これは訴訟物たる「詐害行為取消権の行使」という枠組みの中での、被保全債権の存在という要件事実の入れ替え、すなわち攻撃防御方法の変更にとどまる。したがって、最初の提訴によって発生した時効中断の効力は、乙債権への変更後も維持されると解される。受益者の主張する時効完成の抗弁は、提訴時を基準とする中断効により認められない。
結論
被保全債権の変更は攻撃防御方法の変更にすぎないため、当初の提訴による時効中断の効力は維持される。上告棄却。
実務上の射程
詐害行為取消訴訟の訴訟物が一個であることを明示した重要判例である。答案上では、被保全債権が複数ある場合や途中で消滅・承継された場合の処理として、訴訟物論(旧訴訟物理論)と絡めて論じる。また、民法426条の期間制限が問題となる場面で、提訴による期間遵守の効果を維持する構成として利用する。
事件番号: 平成12(受)1666 / 裁判年月日: 平成13年11月16日 / 結論: その他
商標権の譲渡行為が詐害行為として取り消された場合に,受益者が第三者から支払を受けた当該商標権の使用許諾料相当額を不当利得として債権者が債務者に代位して返還請求をすることはできない。
事件番号: 昭和49(オ)181 / 裁判年月日: 昭和49年12月12日 / 結論: 棄却
民法四二四条所定の詐害行為の目的たる権利の転得者から悪意で更に転得した者は、たとえその前者が善意であつても、同条に基づく債権者の追及を免れることができない。