商標権の譲渡行為が詐害行為として取り消された場合に,受益者が第三者から支払を受けた当該商標権の使用許諾料相当額を不当利得として債権者が債務者に代位して返還請求をすることはできない。
商標権の譲渡行為が詐害行為として取り消された場合に受益者が第三者から支払を受けた当該商標権の使用許諾料相当額を不当利得として債権者が債務者に代位して返還請求をすることの可否
民法424条,民法425条
判旨
詐害行為取消しの効果は債権者と受益者との間で相対的に生じるに過ぎず、債務者と受益者の間では当該行為は依然として有効である。そのため、詐害行為として取り消された譲渡財産から受益者が得た収益について、債務者が受益者に対し不当利得返還請求権を有することはない。
問題の所在(論点)
詐害行為が取り消された場合、債務者は受益者に対し、目的財産から生じた果実(使用料等)について不当利得返還請求権を有するか。詐害行為取消しの効力が債務者に及ぶか(民法425条[※判決当時]の範囲)が問題となる。
規範
詐害行為取消しの効力は、取消訴訟の当事者である債権者と受益者との間においてのみ当該法律行為を無効とするにとどまる(相対的効力)。債務者との関係では当該法律行為は依然として有効に存在するため、債務者は受益者に対し、当該行為による目的財産の移転を否定することはできない。
重要事実
債務者D社は、唯一の資産である本件商標権を債権者の一人である上告人に譲渡担保として譲渡した。その後、債権者である被上告人がこの譲渡を詐害行為として取り消した。一方、上告人は当該商標権につき第三者と使用許諾契約を締結し、使用許諾料(約2202万円)を受領していた。被上告人は、詐害行為取消しによって上告人の利得は法律上の原因を欠くに至ったと主張し、D社の不当利得返還請求権を代位行使して当該金員の支払を求めた。
事件番号: 平成21(受)708 / 裁判年月日: 平成22年10月19日 / 結論: 棄却
詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない。 (補足意見がある。)
あてはめ
詐害行為取消しの効果は相対的なものであるから、本件商標権の譲渡が取り消されても、債務者D社と受益者である上告人との間では、当該譲渡は依然として有効である。したがって、上告人が第三者との使用許諾契約に基づき受領した使用許諾料は、D社との関係においては「法律上の原因」がないとはいえない。ゆえに、D社が上告人に対して不当利得返還請求権を有することを前提とする被上告人の代位請求は認められない。
結論
債務者は受益者に対し不当利得返還請求権を有しないため、債権者による代位請求は認められない。
実務上の射程
詐害行為取消権の相対的効力の原則(現行法425条が明文化する前の法理)を明確にした射程の長い判例である。改正民法425条下においても、取消しの効力は「債務者及びすべての債権者のためにも」生じるとされたが、債務者に直接利得を帰属させる趣旨ではないため、答案上は今なお不当利得の成否を論ずる際の重要な法理として機能する。
事件番号: 昭和31(オ)848 / 裁判年月日: 昭和33年7月10日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】動産先取特権を有する債権者が債務者から当該動産を売戻しにより取得する行為は、優先弁済権の存在を理由に直ちに詐害行為性が否定されるものではなく、また価額賠償の算定にあたっては、受益者の実際の処分価格を漫然と基準にすべきではない。 第1 事案の概要:債務者D商事は、被上告人に対し、売掛代金債務の弁済に…
事件番号: 昭和61(オ)495 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 破棄差戻
抵当権の設定されている不動産について当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであり、詐害行為の後に弁済等によつて右抵当権設定登記が抹消されたときは、その取消による原状回復は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格賠…