判旨
動産先取特権を有する債権者が債務者から当該動産を売戻しにより取得する行為は、優先弁済権の存在を理由に直ちに詐害行為性が否定されるものではなく、また価額賠償の算定にあたっては、受益者の実際の処分価格を漫然と基準にすべきではない。
問題の所在(論点)
1. 債務者が特定の債権者に対し、その債権者が先取特権を有する動産を譲渡する行為(売戻し等)が、詐害行為(民法424条)を構成するか。 2. 目的物が処分されている場合の価額賠償の算定において、受益者による実際の処分価格を基準とすることが許されるか。
規範
1. 詐害行為の成否:動産先取特権は、債務者が占有する動産の換価代金から優先弁済を受ける権利(民法303条、304条等)にすぎず、債権者が債務者から当該動産を悪意で買い戻す行為につき、詐害行為の成立を当然に妨げるものではない。 2. 価額賠償の算定基準:詐害行為取消権に基づく価額賠償の額は、受益者が実際に処分した価格を当然の基準とするのではなく、客観的な相場の変動や処分の時期の相当性を考慮して判断すべきである。
重要事実
債務者D商事は、被上告人に対し、売掛代金債務の弁済に代えて(または売戻しの形式で)、先取特権の対象となる商品を含む物品を譲渡した。上告人(債権者)は、これが総債権者を害する詐害行為であるとして取消しを求めた。原審は、当該商品について被上告人が動産先取特権を有していたことを理由に詐害行為の成立を否定し、また一部認められた価額賠償についても、受益者が任意に売却した際の時価相当額を賠償額とした。
あてはめ
1. 先取特権は、法定の競売手続等による換価代金について優先弁済を認める権利にすぎず、裁判外での譲渡(売戻し)を正当化するものではない。本件では、債務者から債権者へ悪意で売戻されたのであれば、先取特権の存在を理由に詐害行為性を否定することは法解釈を誤るものである。 2. 価額賠償額の算定について、受益者は必ずしも総債権者の利益を考慮して処分するわけではなく、不当に低い価格や不適切な時期に処分する可能性がある。したがって、他に首肯すべき事情がない限り、単に受益者の任意売却時の価格を賠償額とすることは、審理不尽・理由不備といえる。
結論
1. 先取特権の対象物であっても、悪意の売戻しであれば詐害行為を構成し得る。 2. 価額賠償額は、受益者の実際の処分価格を直ちに基準とせず、客観的な適正価格を審理して決定すべきである。
実務上の射程
特定の債権者に対する代物弁済や売戻しが詐害行為となる場面で、その債権者が優先弁済権(先取特権等)を有していても免責されないことを示す。また、価額賠償における「時価」の算定において、受益者の処分価格に拘束されないという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和38(オ)741 / 裁判年月日: 昭和40年10月15日 / 結論: 破棄差戻
一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三…