総債権者のための唯一の共同担保である債権の譲渡が、判示のような事情から債務の本旨に従つた弁済と同視しえず、かつ、他の債権者を害することを知りながらされたときは、右債権譲渡は債権者詐害行為にあたる。
債権譲渡が債権者詐害行為にあたるとされた事例
民法424条,民法466条
判旨
債務者が唯一の資産である債権を、相当な対価を得ることなく特定の債権者に譲渡し、かつ譲受人から交付された金員を既存債務の弁済に充当しない合意がある場合、当該譲渡は詐害行為に該当する。
問題の所在(論点)
債権の譲渡が、特定の債権者に対する事実上の優先弁済の態様をとりつつ、実際には相当な対価を欠き、共同担保を減少させる場合に、詐害行為(民法424条1項)として取り消しうるか。
規範
債務者が、特定の債権者に対する債務の弁済として、または代物弁済として自己の資産を譲渡する行為であっても、それが相当な対価をもってなされたものではなく、かつ総債権者のための共同担保を減少させ、他の債権者を害することを知ってなされた場合には、詐害行為取消権(民法424条1項)の対象となる。特に、譲渡対象が唯一の資産であり、譲受人において債権者を害する事実を知っていた場合には、原則として詐害行為性が認められる。
重要事実
債務者Dは、上告人および被上告人らに対して多額の債務を負担していた。Dの資産は本件債権のほかに見るべきものがなく、これが総債権者のための唯一の共同担保であった。Dは、子供の養育費や他の借財の支払に充てる目的で、本件債権を上告人に譲渡した。その際、上告人からDに100万円が交付されたが、この100万円はDが上告人に対して負っている既存債務の弁済には充当しないという合意がなされていた。Dは他の債権者を害することを知りながら譲渡を行い、上告人もまたその事実を知っていた。
あてはめ
本件債権譲渡は、相当な対価をもってなされたものではない。譲受人である上告人から100万円が交付されているが、これは既存債務の弁済に充当されない合意があり、純粋な弁済と同視することはできない。債務者Dは他に資産がなく、本件債権が唯一の共同担保であったことから、この譲渡により他の債権者への配当原資が失われている。Dには他の債権者を害する認識(詐害意思)があり、上告人もまた債権者を害することを知っていた(受益者の悪意)と認められる。したがって、本件譲渡は債務の本旨に従った弁済とは評価できず、共同担保を不当に減少させる行為といえる。
結論
本件債権譲渡は詐害行為に該当し、取消しを免れない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
特定の債権者に対する弁済や代物弁済は原則として詐害行為にならないが、本判決は「相当な対価を欠く場合」や「債務の本旨に従わない特約がある場合」にはその原則が修正されることを示している。答案上は、債務超過状態での唯一資産の譲渡において、対価の有無や弁済としての実質を精査する際の根拠として活用すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)420 / 裁判年月日: 昭和33年9月26日 / 結論: 破棄差戻
債務超過の状態にある債務者が、一債権者に対しなした弁済が、たとえ原審認定(原判決参照)の如き経緯に出た場合であつても、それが債権者から強く要求された結果、法律上当然弁済すべき債務をやむなく弁済したものと認められる以上、未だこれをもつて債務者が一債権者と通謀し他の債権者を害する意思をもつてなした詐害行為であると解すること…