債務超過の債務者が、特定の債権者だけに優先的に債権の満足を得させ、他の債権者を害する意図のもとに、自己の有する不動産あるいは重要な動産を右債権者に売却して、右売買代金債権と同債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をし、同債権者も、これにより他の債権者を害することを知つて買い受けたときは、たとい右売買代金が適正価格であるとしても、右売却行為は民法第四二四条所定の詐害行為に当るものと解するのを相当する(昭和三九年一一月一七日第三小法廷判決、民集一八巻九号一八五一号参照)。
債務者の適正価格による財政処分行為が詐害行為に当るとされた事例
民法424条
判旨
債務超過の債務者が、特定の債権者にのみ優先的に弁済を受ける利益を与える意図で、相当価格による不動産等の売却と当該債権者の有する債権との相殺を行った場合、債権者が他の債権者を害することを知っていたときは、詐害行為にあたる。
問題の所在(論点)
債務者が特定の債権者に対してのみ優先的に債権の満足を得させる目的で、適正価格による資産売却と相殺を行った場合、詐害行為(民法424条)が成立するか。
規範
債務超過の債務者が、(1)特定の債権者だけに優先的に債権の満足を得させ、他の債権者を害する意図のもとに、(2)自己の有する不動産や重要な動産を当該債権者に売却して、(3)売買代金債権と当該債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をし、(4)当該債権者も他の債権者を害することを知って買い受けたときは、たとえ売買代金が適正価格であっても、民法424条所定の詐害行為にあたる。
重要事実
債務超過の状態にあったD社は、廃業に際し、その全財産ともいうべき物件を一括して代金900万円で特定の債権者である上告会社に売却した。その際、代金のうち500万円については、D社が以前に上告会社から受けていた融資債務と相殺する旨の合意がなされた。D社には、上告会社だけに優先的に弁済を受けさせ、他の債権者を害する意図があり、上告会社もその事情を認識しながら買い受けていた。
あてはめ
D社は債務超過にありながら、全財産に近い物件を売却し、その代金の過半を上告会社への債務の相殺に充てている。これは実質的に特定の債権者への優先的弁済と同視できる。D社には「他の債権者を害する意図」が認められ、上告会社もその「情を知りながら」買い受けている。したがって、売買価格が適正であったとしても、特定の債権者との通謀により他の一般債権者の引き当てを減少させる行為として、詐害性が認められる。売買代金の一部が他の債権者への支払いに充てられていたとしても、この結論は左右されない。
結論
本件売買行為は、適正価格によるものであっても詐害行為に該当する。
実務上の射程
特定の債権者に対する偏頗行為(偏頗弁済等)が詐害行為となるための判断枠組みを示している。特に、相当価格による資産の譲渡であっても、代金と債権の相殺を伴い、かつ主観的な害意(通謀的な優先弁済の意図)が認められる場合には、詐害行為取消権の対象となることを明示しており、現行民法424条の3(特定の債権者に対する行為)の解釈指針として重要である。
事件番号: 昭和48(オ)235 / 裁判年月日: 昭和48年11月30日 / 結論: 破棄差戻
債務超過の状態にある債務者が特定の債権者に対する債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡し、この債権の額が右債権者に対する債務の額を超えない場合であつても、債務者に詐害の意思があるときは、右債権譲渡は、詐害行為として取消の対象になりうる。