抵当権の設定を受けた債権者がその登記を経由していない場合には、右抵当権設定をもつて破産債権者に対抗することができず、破産者が、右抵当債権者と通謀して、同人だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、その唯一の資産たる担保不動産を、売買代金債権と被担保債権とを相殺する約定で売却したときは、右売買は、否認権行使の対象となる。
未登記抵当権者に対する担保不動産の売却と否認権の行使
破産法72条1号,民法177条
判旨
未登記抵当権を有する債権者は破産債権者に対抗できず、当該目的物は全価額が共同担保となるため、その売却と被担保債権との相殺は詐害行為否認の対象となる。
問題の所在(論点)
未登記抵当権者が優先弁済権を有しない場合に、当該不動産の譲渡と被担保債権との相殺が破産債権者の共同担保を害する「詐害行為」に該当するか。
規範
未登記抵当権者は、設定者が破産宣告を受けた場合、その抵当権を破産債権者に対抗できず、優先弁済を受けることもできない。したがって、目的不動産は被担保債権額にかかわらず全価額が破産債権者の共同担保となる。破産者が、特定の未登記抵当権者に優先的満足を得させる意図で、唯一の資産を売買代金と債務の相殺により譲渡した場合、売買価格が適正であっても破産法上の詐害行為(破産法160条1項1号、旧72条1号)として否認の対象となる。
重要事実
債務者Dは、被上告人から900万円を借り入れ、その担保として本件山林持分に抵当権を設定したが、登記は未了であった。Dは他の債権者に対しても多額の債務を負い、本件山林持分が唯一の資産であった。Dは、被上告人と通謀して特定の優先弁済を図る意図で、本件山林持分を被上告人に売却し、その代金債務と貸金債権を相殺した。破産管財人である上告人は、この行為が詐害行為に当たるとして否認権を行使した。
あてはめ
被上告人の抵当権は未登記であり、破産債権者に対抗できないため、本件山林持分は全価額が総債権者のための共同担保を構成していた。Dは債務超過状態で唯一の資産を譲渡しており、その目的は特定の債権者(被上告人)にのみ優先的な満足を与えることにある。たとえ売買価格が適正であっても、実質的には共同担保である不動産を特定の債権者に独占させ、他の債権者への配当原資を失わせるものである。したがって、本件売買および相殺は、破産債権者を害する詐害行為といえる。
結論
本件売買は詐害行為にあたり、否認権行使の対象となる。したがって、上告人の請求を認容した第一審判決は相当である。
実務上の射程
対抗要件を具備していない不完全な担保権者が、破産直前に事実上の優先弁済を受ける行為を阻止する射程を持つ。適正価格での譲渡であっても、優先権のない債権者との相殺が組み合わさることで実質的な責任財産の逸脱(偏頗弁済的側面)が生じる場合に、160条1項1号(詐害行為否認)の適用を肯定する指針となる。
事件番号: 昭和39(オ)1328 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
債務超過の債務者が、特定の債権者だけに優先的に債権の満足を得させ、他の債権者を害する意図のもとに、自己の有する不動産あるいは重要な動産を右債権者に売却して、右売買代金債権と同債権者の有する債権とを相殺する旨の約定をし、同債権者も、これにより他の債権者を害することを知つて買い受けたときは、たとい右売買代金が適正価格である…