一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三六年七月一九日大法廷判決、民衆一五巻七号一八七五頁参照)。
一 抵当権の付着する不動産を提供してなされた代物弁済と詐害行為成立の範囲 二 右の場合における原状回復の方法
民法424条
判旨
抵当権が設定されている不動産の代物弁済が詐害行為となる場合、その取消範囲は不動産価格から抵当権の被担保債権額を控除した残額に限定される。目的物が不可分なときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を求めるべきである。
問題の所在(論点)
抵当権が設定された不動産の代物弁済が詐害行為となる場合、契約全部の取消しおよび現物返還(登記抹消)を請求できるか。あるいは、抵当権の負担を控除した残額の範囲で価格賠償を求めるべきか。
規範
抵当権等の優先弁済権が設定されている財産が譲渡された場合、詐害行為取消権(民法424条)の対象となるのは、当該財産の価格から優先弁済を受けるべき債権額を差し引いた「残額」の部分に限られる。また、その目的物が一棟の家屋のように不可分である場合には、現物返還ではなく、詐害行為となる限度(残額部分)での価格賠償を求めるべきである。
重要事実
債務者Dは、本件家屋に極度額150万円の根抵当権を設定していた。上告人(受益者)はDの債務74万円を代位弁済して求償権を取得し、当該根抵当権の移転を受けた。その後、Dは上告人に対し、求償債務の支払に代えて本件家屋を代物弁済として譲渡した。これに対し、Dの他の債権者である被上告人が、右譲渡は詐害行為に当たるとして譲渡契約全体の取消しと所有権移転登記の抹消を求めた。
事件番号: 昭和61(オ)495 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 破棄差戻
抵当権の設定されている不動産について当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであり、詐害行為の後に弁済等によつて右抵当権設定登記が抹消されたときは、その取消による原状回復は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格賠…
あてはめ
本件家屋には代物弁済の時点で既に抵当権(根抵当権)が設定されており、一般債権者のための責任財産となるのは、家屋の評価額から当該抵当権の被担保債権額を控除した余剰部分のみである。したがって、詐害行為が成立し得るのはこの余剰部分に限られる。また、本件家屋は一棟の建物であり物理的に不可分であるため、一部取消しに伴う原状回復として登記を抹消することは、詐害的でない部分まで取り消すことになり許されない。よって、価格賠償の手法によるべきである。
結論
本件譲渡契約全部を取り消し、所有権移転登記の抹消を命じた原判決には民法424条の解釈適用の誤りがある。家屋価格が被担保債権額を超える限度でのみ取消しと価格賠償を認めるべきである。
実務上の射程
抵当権付不動産の譲渡における詐害行為の範囲を画定した重要判例である。答案上は、責任財産の減少が「抵当権の負担を控除した価値」の限度であることを指摘し、現物返還が困難な「不可分性」を理由に、一部取消しと価格賠償(424条の6参照)を基礎付ける理論として用いる。
事件番号: 昭和30(オ)260 / 裁判年月日: 昭和36年7月19日 / 結論: 破棄差戻
一 特定物引渡請求権を有する者も、その目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解すべきである。 二 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は、家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解…