一 特定物引渡請求権を有する者も、その目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解すべきである。 二 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は、家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 三 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない。
一 特定物引渡請求権者は詐害行為取消権を有するか。 二 抵当権の附着する不動産を提供してなされた代物弁済と詐害行為成立の範囲。 三 右の場合における原状回復の方法。
民法424条
判旨
特定物引渡請求権も、目的物の処分により債務者が無資力となった場合には詐害行為取消権の被保全債権となり得る。また、目的物が不可分な代物弁済において、取消しの範囲が一部に限られるときは、価格賠償を請求すべきである。
問題の所在(論点)
①特定物引渡請求権を有する者は、債務者が当該特定物を処分して無資力となった場合に、民法424条の詐害行為取消権を行使できるか。②不可分な目的物の代物弁済が一部詐害行為となる場合、取消しの範囲および原状回復の方法はどうあるべきか。
規範
特定物引渡請求権であっても、究極において損害賠償債権に変じ得るものであるから、債務者の一般財産により担保されるべき金銭債権と同様、詐害行為取消権の被保全債権となり得る。また、債務者が目的物をその価格以下の債務の代物弁済として提供し、共同担保に不足を生じさせた場合、取消しの範囲は減少した財産の範囲(物件価格から被担保債権額を控除した残額)に限られる。この場合、目的物が一棟の家屋のように不可分なときは、取消債権者は一部取消しの限度において価格賠償を請求すべきである。
重要事実
事件番号: 昭和36(オ)826 / 裁判年月日: 昭和39年1月30日 / 結論: 破棄差戻
特定物引渡請求権を有する者も、その目的物を債務者が処分することにより無資力となつた場合には、右処分行為を詐害行為として取り消すことができるものと解すべきである。
債権者(被上告人)は、債務者Dとの間で本件家屋の売買契約を締結し、引渡請求権を有していた。Dは他に資産がないにもかかわらず、家屋に8万円の抵当権を有していたEに対し、10万円以上の価値がある同家屋を代物弁済として提供した。これによりDは無資力となったため、債権者は代物弁済契約の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
①Dは本件家屋を処分することで無資力となっており、被上告人の引渡請求権は履行不能に伴う損害賠償債権に変じ得るため、被保全債権としての適格を有する。②本件家屋の価格(10万円以上)と対価たる債務(8万円)には差額があり、共同担保の減少が認められる。しかし、取消しの範囲は当該差額部分に限定されるべきであり、かつ家屋という不可分な財産が対象である以上、全部を取り消して現物を返還させるのではなく、一部取消しの限度で価格賠償を命じるのが相当である。
結論
特定物債権者による取消権行使は認められるが、本件代物弁済の取消しは差額の範囲に限られる。目的物が不可分であるため、現物返還ではなく価格賠償を請求すべきであり、全部取消しと移転登記を認めた原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
特定物債権者による取消権行使を認めた重要判例。答案上は、まず被保全債権の適格性を論じた上で、代物弁済等の対価的均衡を欠く行為については「価格の差額」に取消しを限定し、不可分性の論理から現物返還ではなく金銭賠償(価格賠償)へと導く流れを構成する際に用いる。
事件番号: 昭和38(オ)741 / 裁判年月日: 昭和40年10月15日 / 結論: 破棄差戻
一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三…