もともと当該不動産について一般債権者の共同担保たる余剰がないという場合には、これを目的とする代物弁済が詐害行為を構成するか否かの判断に当つて、右代物弁済によつて消滅した債権額を明らかにする必要はない。
詐害行為の成否の判断に当つて詐害行為の対象たる代物弁済によつて消滅した債権額を明らかにする必要がないとされた事例
民法424条,民法482条
判旨
債務者が特定の債権者に対して代物弁済を行った場合において、当該不動産が一般債権者の共同担保としての余剰を欠くときは、詐害行為取消権の対象とはならない。
問題の所在(論点)
特定の債権者に対する代物弁済がなされた際、その対象不動産に一般債権者のための「共同担保としての余剰」がない場合、詐害行為取消権を行使できるか。
規範
詐害行為取消権(民法424条)の対象となる行為は、債権者を害する行為、すなわち債務者の責任財産を減少させ、債権者への弁済を不可能または困難にする行為であることを要する。したがって、特定の債権者に対する代物弁済であっても、対象物件が既に多額の抵当権等が設定されているなどして一般債権者の共同担保たる余剰がない場合には、当該行為によって他の債権者を害したとはいえず、詐害行為を構成しない。
重要事実
債務者Eは、被上告人らに対して総額約600万円の債務を負っていた。Eはその債務の一部を消滅させるために、本件建物の代物弁済を行った。これに対し、Eの別の債権者である上告人が、当該代物弁済は詐害行為にあたるとして取消しを求めて提訴した。原審は、本件不動産には一般債権者の共同担保としての余剰がないと判断し、請求を棄却していた。
あてはめ
本件において、被上告人らが行った代物弁済の対象である不動産は、原判決の認定によれば、既に一般債権者の共同担保としての価値(余剰)を有していなかった。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全し、全債権者に対する平等な満足を目的とする制度である。しかし、そもそも余剰がない不動産が処分されたとしても、他の債権者が受けるべき配当額が減少することはないため、「債権者を害した」という要件を満たさないと評価される。この場合、消滅した債権の具体的な額を厳密に確定させる必要もなく、詐害行為の成立は否定される。
結論
対象不動産に共同担保たる余剰がない場合、代物弁済は詐害行為を構成しない。したがって、上告人の請求は認められず、本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
詐害行為取消権の「詐害性」を判断する際、処分された財産の担保価値が被担保債権額を上回っているか(責任財産としての実質があるか)を検討する際のリーディングケースとなる。答案上では、代物弁済の詐害性を論ずる際、まずは「余剰の有無」を確認し、余剰がない場合には詐害性を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)741 / 裁判年月日: 昭和40年10月15日 / 結論: 破棄差戻
一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三…