破産会社が、破産宣告を受ける前に、その経営が事実に反し健全であるかのように装つて第三者を欺罔し、新株の引受および貸付の意思表示をさせて金員の給付を受けたのち、その意思表示が詐欺を理由に取り消されたため、その利得の返還として同額の金員を同人に支払つた場合においても、破産債権者を害する意図のもとに支払をしたときは、その弁済について破産法七二条一号が適用されるものと解すべきである。
詐欺を理由に取り消された法律行為に基づく利得を破産者が返還した場合と破産法七二条一号の適用
破産法15条,破産法72条1号,民法96条,民法121条
判旨
詐欺を理由とする契約取消しにより生じた金銭債権の債権者は、一般債権者と差異はなく、その債権に対する弁済や代物弁済は、破産法上の否認権(詐害行為否認)の対象となる。金銭は特定性を欠くため、取消しによっても所有権は復帰せず、返還請求権は一般の共同担保を構成する財産から満足を受けるべき性質のものにとどまるからである。
問題の所在(論点)
詐欺によって金銭を給付した者が、契約取消後に受けた弁済または代物弁済は、一般債権者を害するものとして破産法上の否認権(詐害行為否認)の対象となるか。取消による物権的復帰の有無が問題となる。
規範
金銭を目的とする契約が詐欺により取り消された場合であっても、特段の事情がない限り、給付された金員に特定性がないため、所有権が当然に復帰するものではなく、給付者は利得返還請求権という債権を有するにすぎない。したがって、当該債権者への弁済または代物弁済が、債務者の支払不能時等において他の債権者を害する意図および認識をもって行われたときは、破産法上の否認権行使(詐害行為否認)の対象となる。
重要事実
電機器具販売業者であるD社は、虚偽の資料を提示して上告人を欺き、新株引受金及び貸付金として合計200万円の入金を受けた。上告人は詐欺を理由に各契約を取り消したが、支払不能に陥っていたD社は上告人に対し、現金50万円の弁済及び残金150万円の代物弁済として約束手形や営業用機械等を譲渡した。D社の代表者は他の債権者を害する意図を有しており、上告人の代理人もD社の著しい資産悪化を認識していた。その後、D社が破産したため、破産管財人である被上告人が右弁済等の否認を求めた。
あてはめ
上告人が給付した200万円は金銭であり、特定性が失われているため、詐欺取消によっても所有権は上告人に復帰しない。上告人は単なる利得返還請求権を有するにすぎず、その地位は一般の破産債権者と異ならない。本件代物弁済等の対象となった物件は、一般債権者の共同担保である破産財団に属するものである。D社は事実上の支払不能状態で、他の債権者を害する意図をもって給付を行い、上告人も代理人を通じてその事実を知っていた以上、破産法上の否認要件を充足する。
結論
上告人に対する弁済及び代物弁済は、破産法上の否認権(詐害行為否認)に基づき有効に否認される。上告人は破産財団を原状に回復させる義務を負う。
実務上の射程
詐欺被害者であっても、金銭給付の場合は物権的請求権を行使できる立場になく、一般債権者として扱われることを示した。答案上では、破産法上の否認権や民法上の詐害行為取消権の文脈で、被請求権者が「債権者」にすぎないことを論証する際に、金銭の特定性と所有権復帰の否定を根拠として引用する。
事件番号: 昭和61(オ)495 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 破棄差戻
抵当権の設定されている不動産について当該抵当権者以外の者との間にされた代物弁済予約及び譲渡担保契約が詐害行為に該当する場合において、右不動産が不可分のものであり、詐害行為の後に弁済等によつて右抵当権設定登記が抹消されたときは、その取消による原状回復は、右不動産の価額から右抵当権の被担保債権額を控除した残額の限度で価格賠…