借地借家法38条2項所定の書面は,賃借人が,その契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要する。
借地借家法38条2項所定の書面が賃借人の認識にかかわらず契約書とは別個独立の書面であることの要否
借地借家法38条
判旨
借地借家法38条2項所定の事前説明書面は、契約の更新がなく期間満了により終了することを理解させ、紛争を未然に防止する趣旨から、賃借人の認識の有無にかかわらず、賃貸借契約書とは別個独立の書面であることを要する。
問題の所在(論点)
借地借家法38条2項に基づき、定期建物賃貸借の事前説明に用いる書面は、賃貸借契約書(またはその原案)とは別個独立した書面であることを要するか。賃借人が内容を熟知している場合でも、形式的な交付を欠くことで無効となるかが問題となる。
規範
借地借家法38条2項は、定期建物賃貸借契約に先立ち、賃貸人に「契約の更新がなく期間満了により終了する」旨を記載した書面の交付および説明を義務付けている。同条の趣旨は、賃借人に十分な情報を提供し意思決定を促すとともに、書面交付を要求することで契約の更新に関する紛争の発生を未然に防止することにある。したがって、同項所定の書面は、契約の締結経緯や賃借人の認識といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的・画一的に、契約書とは別個独立の書面であることを要すると解する。
重要事実
不動産賃貸業を営む賃貸人(被上告人)と、宿泊施設経営を営む賃借人(上告人)は、期間を5年とし契約更新がない旨の条項(本件定期借家条項)を含む賃貸借契約を締結した。賃貸人は契約締結に先立ち、本件条項と同内容の記載がある「契約書の原案」を賃借人に送付し、賃借人はその内容を検討していた。しかし、賃貸人は契約書原案以外に、同法38条2項が定める事前説明のための独立した書面を別途交付していなかった。
事件番号: 平成21(受)120 / 裁判年月日: 平成22年7月16日 / 結論: 破棄差戻
賃貸人が定期建物賃貸借契約の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しいにもかかわらず,賃貸借契約に係る公正証書に説明書面の交付があったことを相互に確認する旨の条項があり,賃借人において上記公正証書の内容を承認していることのみから,借地借家法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書と…
あてはめ
本件において、賃貸人が交付したのは「契約書の原案」であり、これは賃貸借契約の内容そのものを提示したものであって、契約書とは別個独立の書面であるとは認められない。同法38条2項の趣旨は紛争の未然防止にあるため、賃借人が更新がないことを既に認識していたか否かといった事情は考慮されない。また、賃借人が無効を主張することが信義則に反すると評価すべき特段の事情もうかがわれない。したがって、法定の書面交付を欠く本件では、同条3項により定期借家条項は無効となる。
結論
本件定期借家条項は無効であり、本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらない。契約は期間の定めがない賃貸借として更新されたものと解され、賃貸人による建物の明渡し請求は認められない。
実務上の射程
実務上、定期建物賃貸借の有効性を判断する際、事前説明書面が「契約書と一体化」していないか、あるいは「契約書の一部」に過ぎないかが厳格にチェックされる。プロ同士の契約であっても、この形式要件を欠けば一律に無効となるため、答案上も個別事情による修正(賃借人がプロであること等)を安易に認めない判断枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和32(オ)649 / 裁判年月日: 昭和32年12月27日 / 結論: 棄却
建物賃貸借の更新拒絶について必要とされる正当事由の存否は、賃貸人および賃借人の双方の利害得失を比較考量してこれを決すべきである。