賃貸人が定期建物賃貸借契約の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しいにもかかわらず,賃貸借契約に係る公正証書に説明書面の交付があったことを相互に確認する旨の条項があり,賃借人において上記公正証書の内容を承認していることのみから,借地借家法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定には,経験則又は採証法則に反する違法がある。
賃貸人から賃借人に対して借地借家法38条2項所定の書面の交付があったとした原審の認定に経験則又は採証法則に反する違法があるとされた事例
借地借家法38条,民訴法247条
判旨
借地借家法38条2項所定の説明書面の交付の有無が争われる場合、公正証書内に「書面を交付して説明したことを確認する」旨の条項があり賃借人が署名捺印していても、それのみをもって直ちに同条の書面交付があったと認定することはできない。
問題の所在(論点)
借地借家法38条2項が要求する「書面の交付」の有無を認定するにあたり、契約締結後に作成された公正証書内の「書面を交付して説明したことを確認する」旨の定型的な条項の存在のみをもって、書面交付の事実を推認できるか。
規範
定期建物賃貸借(借地借家法38条)が有効に成立するためには、賃貸人があらかじめ賃借人に対し、更新がなく期間満了により終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければならない(同条2項)。この書面の交付は、契約書とは別個独立の書面をもってなされることを要する。事実認定においては、単に事後的に作成された公正証書上の確認条項の存在のみならず、実際に具体的な交付行為があったか否かを厳格に判断すべきである。
重要事実
賃貸人(被上告人)と賃借人(上告人)は、期間約2年半の定期建物賃貸借契約を締結し、その後「契約の更新がなく、期間満了により終了することについて、あらかじめ書面を交付して説明したことを相互に確認する」旨の条項を含む公正証書を作成した。賃貸人は当該公正証書以外の客観的証拠を提出せず、説明書面を現実に交付した具体的な日時・態様についても主張していなかった。原審は、公正証書の確認条項と公証人による読み聞かせの事実から、書面交付があったと推認して定期借家契約の成立を認めたため、賃借人が上告した。
あてはめ
借地借家法38条2項が契約書と別個の書面交付を要求している趣旨は、賃借人に定期借家であることを確実に認識させ、慎重な検討を促す点にある。本件では、現実の説明書面そのものが証拠提出されておらず、賃貸人も「いつ、どのような書面を交付したか」という具体的な主張を欠いている。公正証書上の確認条項は事後的な形式的記載にすぎず、それのみから現実に別個の書面が交付されたと推認することは、法が求める厳格な手続保障を形骸化させるものであり、経験則又は採証法則に反する。
結論
公正証書の記載のみから書面交付があったとした原審の認定には違法がある。原判決を破棄し、書面交付の具体的存否を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
定期建物賃貸借の成立要件(38条2項)に関する事実認定の厳格さを示す。実務上、契約書内の文言や公正証書による追認的な条項だけでは書面交付要件を満たさないリスクが高い。答案上は、同条2項の「交付」が契約書とは「別個の書面」であることを明記した上で、本判例を根拠に、単なる確認条項の存在だけでは足りず、現実に書面が手渡された事実の主張・立証が必要であると論じるべきである。
事件番号: 昭和26(オ)610 / 裁判年月日: 昭和27年5月9日 / 結論: 棄却
他人の賃借現住中の家屋を買い受けた者でも、原判決認定のような事情があるときは、右家屋中原判示部分の明渡を求めるにつき正当の事由がある。
事件番号: 昭和36(オ)1161 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 破棄差戻
永年盛大に旗屋を営業していたものが、店舗兼住宅の戦災による焼跡を終戦後間もなく他人に「おでんや」営業用の建物の敷地として使用することを許し、その後右当事者間において右土地使用関係につき期間五箇年の使用貸借契約を内容とする契約書を取り交したなど判示の事情(当審判決参照)がある場合貸主が借主より毎月若干の金員を受領していた…