永年盛大に旗屋を営業していたものが、店舗兼住宅の戦災による焼跡を終戦後間もなく他人に「おでんや」営業用の建物の敷地として使用することを許し、その後右当事者間において右土地使用関係につき期間五箇年の使用貸借契約を内容とする契約書を取り交したなど判示の事情(当審判決参照)がある場合貸主が借主より毎月若干の金員を受領していた事情(当審判決参照)があつても、右土地使用につき当初より普通建物の所有を目的とする賃貸借契約が成立したものであると認定することは、経験法則に違背する。
土地賃貸借契約成立の認定が経験法則に違背するとされた事例。
民訴法185条,民訴法394条
判旨
契約書の文言は契約条項の有力な意思解釈の材料であり、特段の事情がない限り、書面の記載に反する口頭の合意や事実認定は許されない。
問題の所在(論点)
書面による契約内容と異なる口頭の合意が主張される場合に、契約書の文言を離れて契約内容を認定できるか。民法91条に基づく意思表示の解釈および事実認定の限界が問題となる。
規範
契約において契約書が作成されている場合、その文面上の文言は契約条項の有力な意思解釈の材料となる。特に、想定される各種の事態を考慮して詳細な条項が記載されている場合には、書面の内容と異なる合意の存在を認めるには、書面の記載を覆すに足りる特段な事情の説明を要する。
重要事実
地主(上告人)と借地人(被上告人)は、戦災焼跡の土地につき、当初は口頭で「おでん屋」営業のための貸借を合意した。その後、弁護士が作成した「土地使用貸借契約書」が取り交わされ、そこには「臨時的バラック建築」「期間5年」「恒久的施設禁止」等が明記されていた。しかし、借地人は実際にはコンクリート土台の本建築を行い、地主も「契約書は形式的、賃料は闇賃料対策で無償とするだけ」と説明して署名を求めた。原審は、これらの経緯から書面の文言を否定し、普通建物所有目的の賃貸借を認定した。
事件番号: 昭和33(オ)801 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権譲渡における賃貸人の黙示的承認の有無について、個別の主張事実を排斥した上でそれらを総合しても承認の事実は認められないとした原判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は、賃貸人から借地権譲渡について黙示的な承認を得たと主張した。これに対し、原審(控訴審)は上告人が主張した各事実について個別…
あてはめ
本件契約書は、弁護士により緻密に作成されたものであり、一時的な使用を前提とする条項が詳細に定められている。このような書面が存在する以上、当事者がこれに反する説明を簡単に行うとは考え難い。原審が認定した「形式的な書面に過ぎない」という地主側の説明は、経験則に照らして不自然であり、書面の文言を覆す「特段の事情」の認定としては不十分である。また、後の賃料支払等の事実があっても、直ちに普通建物所有目的の賃貸借があったと断定することはできない。
結論
契約書の文言に反する事実認定を行うには特段の事情を要するところ、原審の判断は経験則に反し、審理不尽・理由不備があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
契約書の文言の推定力を強調する判例であり、実務上、書面がある場合はその記載通りの法的性質(本件では一時使用的な使用貸借)が強く推定される。答案上、書面と異なる事実認定を主張する側に対し、非常に高い立証ハードルを課す論拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)56 / 裁判年月日: 昭和31年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の不法占有者は、民法177条にいう「第三者」には該当せず、所有者は登記がなくても当該占有者に対して所有権を主張できる。また、換地予定地の特定は、地番の表示がなくても所在位置を図面等により示す方法で足りる。 第1 事案の概要:被上告人が所有権を主張する係争土地(換地予定地)について、上告人らが…
事件番号: 昭和36(オ)781 / 裁判年月日: 昭和37年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法(旧法)の保護を受ける賃貸借への変更の有無は、建物の大小、形態、構造のみならず、諸般の事情を総合的に斟酌して判断されるべきである。また、解約申入れが権利濫用に当たるか否かは、認定された事実関係に基づき個別具体的に判断される。 第1 事案の概要:上告人は、ある時点を境として、本件賃貸借が借地法…
事件番号: 昭和28(オ)761 / 裁判年月日: 昭和29年10月7日 / 結論: 棄却
一 土地の賃借権の共同相続人の一人が賃貸人の承諾なく他の共同相続人からその賃借権の共有持分を譲り受けても、賃貸人は、民法第六一二条により賃貸借契約を解除することはできないものと解するのが相当である。 二 戦時罹災土地物件令第三条の適用を受ける土地賃借権を有する者は、罹災後当該土地を所有者から賃借しこれに建物を建ててその…
事件番号: 昭和26(オ)832 / 裁判年月日: 昭和28年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】処分証書によって証明すべき法律行為の成立を認めることができない「格段の反対事情」がある場合には、裁判所は当該書証の証明力を排斥することができる。 第1 事案の概要:上告人は、甲第一号証および乙第一号証という書証に基づき、賃貸借契約の成立を主張した。これに対し原審は、当該書証が作成されるに至った詳細…