判旨
処分証書によって証明すべき法律行為の成立を認めることができない「格段の反対事情」がある場合には、裁判所は当該書証の証明力を排斥することができる。
問題の所在(論点)
民事訴訟法における自由心証主義(247条)に関連し、処分証書の証明力に関して、どのような場合に裁判所はその記載内容と異なる事実認定を行い、当該書証を排斥することができるか。
規範
処分証書(契約書等)の成立が真正であれば、原則としてその記載内容通りの法律行為がなされたものと事実上推定される。しかし、当該書証が作成された経緯等の事実に基づき、その内容を真実と認めることができない「格段の反対事情」が認定される場合には、その証明力を否定し、書証の内容と異なる事実を認定することが可能である。
重要事実
上告人は、甲第一号証および乙第一号証という書証に基づき、賃貸借契約の成立を主張した。これに対し原審は、当該書証が作成されるに至った詳細な経緯や事実関係を検討した結果、これらの書証のみでは賃貸借成立の事実を認定することはできないとして、書証を排斥した。上告人は、この原審の判断が、書証の証明力を尊重すべきとする大審院判例に違反するとして上告した。
あてはめ
本件において原判決は、判文で詳述された具体的経緯(書証作成の背景等)に基づき、上告人主張の賃貸借成立を否定した。これは、判例上認められている「格段の反対事情」を具体的に認定したものであり、単に証拠を恣意的に無視したものではない。したがって、書証の形式的成立に争いがなくとも、その実質的証明力を否定するに足りる合理的な事実認定がなされているといえる。
結論
格段の反対事情が認定される以上、書証の証明力を排斥した原審の判断に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和36(オ)1161 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 破棄差戻
永年盛大に旗屋を営業していたものが、店舗兼住宅の戦災による焼跡を終戦後間もなく他人に「おでんや」営業用の建物の敷地として使用することを許し、その後右当事者間において右土地使用関係につき期間五箇年の使用貸借契約を内容とする契約書を取り交したなど判示の事情(当審判決参照)がある場合貸主が借主より毎月若干の金員を受領していた…
処分証書の証明力に関する基本判例である。答案上は、契約書等の強い証明力を認める原則を述べつつ、反論として「作成経緯や前後の客観的事実」から「格段の反対事情」があることを具体的に指摘する際の根拠として用いる。自由心証主義の限界を画する論点で重要となる。
事件番号: 昭和32(オ)1233 / 裁判年月日: 昭和33年10月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証拠を排斥する際、その理由を個別に詳しく説示する必要はなく、証拠の取捨選択は裁判所の裁量に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審が特定の証拠を採用しなかったことについて、その理由を十分に説明していない(理由不備)と主張し、原判決の違法を訴えて上告した。 第2 問題の所在(論点):裁判所…
事件番号: 昭和26(オ)658 / 裁判年月日: 昭和29年2月5日 / 結論: 破棄差戻
賃借権が債権であるというだけの理由で、賃借権に基く妨害排除の請求を排斥するのは違法である。