賃貸人が賃借人に賃貸借契約の目的である建物を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した以上は,その終了が賃料債権の差押えの効力発生後であっても,賃貸人と賃借人との人的関係,当該建物を譲渡するに至った経緯及び態様その他の諸般の事情に照らして,賃借人において賃料債権が発生しないことを主張することが信義則上許されないなどの特段の事情がない限り,差押債権者は,第三債務者である賃借人から,当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることができない。
賃料債権の差押えの効力発生後に賃貸借契約がその目的物の賃借人への譲渡により終了した場合において,その後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることの可否
民事執行法145条,民事執行法151条
判旨
賃料債権の差押え後に、賃貸人が賃借人に対して賃貸物件を譲渡したことにより賃貸借契約が終了した場合、特段の事情がない限り、差押債権者は、当該譲渡後に支払期の到来する賃料債権を取り立てることはできない。
問題の所在(論点)
将来賃料債権の差押命令が送達された後に、賃貸人が賃借人に対して目的物を譲渡し、混同等により賃貸借契約が終了した場合、差押債権者はその後に発生すべきであった賃料債権を差し押さえることができるか。民法520条ただし書および差押えの処分布置効の範囲が問題となる。
規範
賃料債権が差し押さえられた場合、債務者は債権の処分を禁止されるが、債権発生の基礎となる賃貸借契約が終了すれば、以降の賃料債権は発生しない。したがって、物件譲渡により賃貸借契約が終了した以上、その終了が差押えの効力発生後であっても、賃貸人と賃借人の人的関係、譲渡の経緯・態様等の諸般の事情に照らし、賃借人が債権の不発生を主張することが信義則上許されないなどの「特段の事情」がない限り、差押債権者は譲渡後の賃料を取り立てることはできない。
重要事実
事件番号: 昭和31(オ)24 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が目的物の所有権を取得した場合には、特段の事情がない限り、混同(民法520条)により賃貸借関係は当然に消滅する。 第1 事案の概要:被上告人は、昭和26年7月23日、売買によって本件建物の所有権を取得した。しかし、それ以前から被上告人は当該建物を賃借していた。その後、上告人側は賃貸借契約の解…
1. 賃貸人Aは、自身が全株式を保有する賃借人(上告人)に対し、本件建物を賃貸した。 2. 債権者(被上告人)は、Aの賃借人に対する賃料債権を差し押さえ、差押命令が各当事者に送達された。 3. その後、賃借人はAから本件建物を含む複数の不動産を買い受け、所有権移転登記を受けて代金を支払った。 4. 賃借人は、物件取得(平成21年12月25日)により賃貸借契約が混同で消滅したため、それ以降の賃料支払義務はないと主張した。
あてはめ
1. 本件では、平成21年12月25日にAから賃借人へ本件建物が譲渡されたことで、賃貸人と賃借人の地位が同一人に帰属し、賃貸借契約は終了している。 2. 契約が終了すれば、その基礎を欠くことになる将来の賃料債権は原則として発生しない。 3. 原審は、差押えが先行していることを理由に民法520条ただし書を適用し、混同による消滅を否定したが、契約自体が終了した場合には「特段の事情」がない限り、以降の賃料債権は発生しないと解すべきである。 4. 本件において、賃借人が債権不発生を主張することが信義則に反するなどの特段の事情があるか否かについて審理が尽くされていない。
結論
物件譲渡により賃貸借契約が終了した以上、特段の事情がない限り、それ以降の賃料債権は発生しない。原審は特段の事情の有無を審理すべきであり、当該部分について破棄自判せず差し戻す。
実務上の射程
判決文からは不明(差戻審の判断に委ねられているが、一般論として、差押え逃れを目的とした親族・同族会社間での不自然な譲渡などが特段の事情に該当し得ると示唆される)。
事件番号: 昭和30(オ)754 / 裁判年月日: 昭和34年12月25日 / 結論: 棄却
抵当不動産の価額が被担保債権額に満たない場合には、その不動産に設定登記された賃料前払の短期賃貸借は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。
事件番号: 昭和28(オ)652 / 裁判年月日: 昭和31年3月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権が譲渡され、さらに譲受人から譲渡人に再譲渡された場合、対抗要件が備えられていなくても、特段の事情がない限り、譲渡人(元の債権者)が行った履行の催告は有効である。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対して有していた準消費貸借上の債権が、一旦、第三者である訴外Dに譲渡され、その後、Dから再び被上…
事件番号: 昭和51(オ)1028 / 裁判年月日: 昭和52年2月17日 / 結論: 棄却
抵当不動産につき、抵当権者自身を権利者とする、賃借権又は抵当債務の不履行を停止条件とする条件付賃借権が設定され、その登記又は仮登記が抵当権設定登記と順位を前後して経由された場合において、競売申立までに対抗要件を具備した短期賃借権者が現われないまま、競落によつて第三者が当該不動産の所有権を取得したときには、特段の事情のな…
事件番号: 昭和39(オ)1487 / 裁判年月日: 昭和41年9月22日 / 結論: 破棄差戻
停止条件付代物弁済契約は、弁済期日に債務不履行のあつた場合に当初の債務全額の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきであり、債務の一部弁済があつた場合にも、その趣旨は異なるものでなく、その残債務の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきではない。