抵当不動産の価額が被担保債権額に満たない場合には、その不動産に設定登記された賃料前払の短期賃貸借は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。
抵当不動産の価額が被担保債権額に満たない場合と賃料前払の短期賃貸借による抵当権者の損害。
民法395条但書
判旨
抵当権設定後に成立した賃料前払のある賃貸借によって、不動産の交換価値が下落し、その価格が抵当権の被担保債権額を担保するに足りなくなった場合には、抵当権に対する損害が認められる。
問題の所在(論点)
抵当権設定後の賃料前払を伴う賃貸借の成立が、抵当権に対する損害(民法上の不法行為や、当時の短期賃貸借解除制度等の要件に関わる侵害)をもたらすか。
規範
抵当権設定後の利用関係によって不動産の交換価値が下落し、その価値が被担保債権の元利金総額を下回る状態(担保割れの状態)が生じる場合には、抵当権に対する損害の発生が肯定される。
重要事実
抵当権が設定された不動産につき、設定後に賃料前払を伴う賃貸借が成立した。本件不動産の更地としての価格は約619万円であったが、当該賃借権の負担がある場合の時価は約203万円にまで下落した。一方で、口頭弁論終結時点における抵当権の被担保債権(元利金総額)は、少なくとも1088万円を超えていた。また、他の共同担保物件の価格を合算しても、当該被担保債権額には達しない状況であった。
あてはめ
本件では、賃料前払という特殊な条件を伴う賃貸借の存在により、不動産の評価額が約202万円余り下落したと認められる。この下落後の不動産価値(および他の担保物件の価値の合算)を検討すると、被担保債権額である1088万円を大幅に下回っている。したがって、抵当不動産の交換価値が債権の満足を確実にするに足りない状態となっており、当該賃貸借の存在は抵当権に損害を生じさせているといえる。
結論
抵当権設定後の賃貸借により不動産価格が下落し、債権額を担保できなくなった以上、抵当権に対する侵害・損害の発生が認められる。
実務上の射程
抵当権侵害を理由とする妨害排除請求や損害賠償請求において、侵害(損害)の有無を判断する際の指標となる。具体的には、侵害行為後の「不動産の時価」と「被担保債権額」を比較し、担保割れが生じているか否かが実務上の重要な判断要素となる。ただし、現代の民法395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)や398条の22等、現行法下での制度との整合性には注意を要する。
事件番号: 昭和33(オ)284 / 裁判年月日: 昭和34年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の占有を許した場合であっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は無断転貸等を理由として賃貸借契約を解除することはできない。 第1 事案の概要:賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく、第三者に賃借物の占有を許した(無断転貸また…