書証として提出された鑑定書に鑑定理由の記載がないことは、右書証の証拠能力に影響がない。
鑑定理由の記載のない鑑定書の証拠能力
民訴法301条,民訴法311条
判旨
抵当不動産について賃借権が存在することにより、不動産価格が低落し抵当権者に損害を及ぼすと認められる場合、裁判所は低落の具体的な理由を個別に判示せずとも、諸証拠に基づきその事実を認定することができる。
問題の所在(論点)
抵当権の侵害(価格低落による損害)を認定する際、裁判所は不動産価格が低落する具体的な理由までを判決書に明示しなければならないか。また、鑑定理由の明示がない書証(鑑定書)を証拠資料とすることの是非が問題となった。
規範
抵当不動産における賃借権の存在が不動産価格を低落させ、抵当権者に損害を及ぼすか否かの判断は、提出された諸証拠を総合した事実認定の問題である。裁判所が自由な心証に基づき、賃借権による価格低落と損害の発生を認定するにあたっては、必ずしもその低落の具体的理由を個別に詳細に判示することを要しない。
重要事実
被上告人(抵当権者)は、対象不動産に設定された賃借権によって不動産価値が低下し、損害を被ったとして争った。原審は、競売開始決定に先立ち作成された評価用の鑑定書(鑑定理由の明示がないもの)を含む諸証拠を総合し、当該賃借権の存在により不動産価格が低落し、被上告人に損害を及ぼす事実を認定した。これに対し上告人は、理由の明示がない鑑定書の採用や、価格低落の具体的理由が判示されていない点を違法であると主張して上告した。
あてはめ
まず、鑑定理由の明示がない鑑定書について、本件では裁判所が命じた鑑定ではなく本件外で作成された書証として提出されているに過ぎない。そのため、理由の有無は証拠能力(形式的証拠力)には影響せず、証拠の評価という心証形成の問題に止まる。次に、賃借権による価格低落の事実認定について、原審は挙示された諸証拠を総合して損害の発生を肯定している。抵当不動産に賃借権が存すれば一般に交換価値は制限されるものであり、諸証拠に基づき価格低落と損害を認定した以上、その詳細な理由付けの欠如が直ちに判決の違法を構成するものではない。
結論
原審が諸証拠に基づき、賃借権の存在による不動産価格の低落と損害の発生を認定したことに違法はなく、低落の具体的理由を個別に判示しなくとも上告理由とはならない。
実務上の射程
抵当権侵害(妨害排除請求や損害賠償請求)の要件として「抵当権の価値を損なう事実」を主張立証する際、実務上は賃借権等の負担による価格低落を広く認める傾向にある。本判決は、事実認定における裁判所の裁量を認めており、答案上は、価値低落の事実認定において厳格な理由付記までは求められないことの根拠として利用できる。
事件番号: 昭和35(オ)76 / 裁判年月日: 昭和37年4月12日 / 結論: 却下
勝訴の当事者は上告の利益を欠き、上告は不適法である。
事件番号: 昭和30(オ)268 / 裁判年月日: 昭和32年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が複数の理由に基づいて行われた場合、その一部の理由が不当であっても、他の正当な理由のみによって処分の基礎が十分に維持されるのであれば、当該処分を違法とすべきではない。 第1 事案の概要:地主Dが、小作人である上告人との農地賃貸借契約を解約するため、知事に対し農地調整法に基づく解約許可申請を…
事件番号: 昭和36(オ)1284 / 裁判年月日: 昭和38年4月12日 / 結論: 棄却
賃借建物で鉄工場を経営していた賃借人が、その事業を自己が代表取締役となつて会社組織にした結果その建物を右会社に転貸するに至つた場合においては、賃貸人は賃貸借の合意解除の効果を転借人に対抗できる。