賃借建物で鉄工場を経営していた賃借人が、その事業を自己が代表取締役となつて会社組織にした結果その建物を右会社に転貸するに至つた場合においては、賃貸人は賃貸借の合意解除の効果を転借人に対抗できる。
建物賃貸借契約の合意解除を転借人に対抗できるとされた事例。
民法612条,民法545条
判旨
賃借人と密接な関係にあり、賃貸借の終了を了承していた転借人に対しては、賃貸借の合意解除をもって転貸借の終了を対抗することができる。
問題の所在(論点)
賃貸借契約が賃貸人と賃借人の合意によって終了した場合、賃貸人はその終了を転借人に対抗し、転貸借契約の終了を主張できるか(民法613条3項参照)。
規範
原則として、賃貸人と賃借人が賃貸借契約を合意解除しても、賃貸人はこれを転借人に対抗できない。しかし、賃借人と転借人が密接な関係にあり、かつ転借人が賃貸借契約の終了を了承していたと認められる特段の事情がある場合には、合意解除をもって転貸借の終了を転借人に対抗できると解すべきである。
重要事実
賃借人と転借人の間には密接な親族・協力関係等の関係が存在していた。賃貸人と賃借人との間で建物の明渡しに関する調停および明渡し猶予の調停が行われた際、転借人はこれに立ち会っていた。その際、転借人は賃貸借契約が既に終了しているという事実関係を十分に認識し、これを了承していた。
あてはめ
本件では、転借人は賃借人と密接な関係にあり、賃貸借の終了に関する調停の場に立ち会うことで、契約終了の経緯や事実を詳細に把握していた。このような状況下で転借人が賃貸借の終了を了承していた以上、信義則上または権利の性質上、転借人の権利を保護する必要性は失われている。したがって、本件転貸借は賃貸借の終了と同時に終了したものと評価できる。
結論
本件転貸借は賃貸借の終了と同時に終了するため、賃貸人は転借人に対して明渡しを請求できる。
実務上の射程
通常、合意解除による転借権の消滅は認められないが、本判決は、転借人が「終了を了承」しているなどの特殊な事情がある場合に限り、その対抗を認める例外を示したものである。答案上は、原則論(対抗不可)を述べた後、信義則上の例外を基礎付ける事実(密接関係・終了の認識)を指摘する際に引用すべき射程の狭い判例である。
事件番号: 昭和31(オ)306 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃借人が賃貸人の承諾を得て建物を転貸した場合、賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約が合意解除されても、原則として、賃貸人は転借人に対して解約の効力を対抗できず、転借人による建物の使用収益を妨げられない。 第1 事案の概要:建物の所有者である賃貸人が、建物の賃借人に対して転貸の承諾を与え、賃借人は…
事件番号: 昭和30(オ)243 / 裁判年月日: 昭和33年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数人の共同賃借人のうち、一部の者のみが賃貸人と合意解約を行って賃貸借関係から脱退することは、民法544条1項に抵触せず有効である。 第1 事案の概要:上告人A(賃貸人)から本件倉庫を賃借していた被上告人(賃借人)および他3名の合計4名の共同賃借人がいた。賃貸人Aから賃貸借の合意解約の申し入れがあっ…
事件番号: 昭和38(オ)802 / 裁判年月日: 昭和40年2月16日 / 結論: 棄却
土地を買い受ける当時、同土地に他人が貸借権を有することを買主が知つていたという事実だけでは、当該買主がその他人の賃借権を否定することをもつて、直ちに権利の濫用であり、信義則に反するとは断定しえない。