土地を買い受ける当時、同土地に他人が貸借権を有することを買主が知つていたという事実だけでは、当該買主がその他人の賃借権を否定することをもつて、直ちに権利の濫用であり、信義則に反するとは断定しえない。
他人が借地権を有することを知つて買い受けた土地の買主が右借地権を否定した場合の権利濫用の成否。
建物保護ニ関スル法律1条,民法1条
判旨
不動産の譲受人が、賃借権の存在を知って当該土地を買い受けたとしても、それだけで賃借権の主張を否定することが権利濫用や信義則違反に当たるとは断定できない。
問題の所在(論点)
土地賃借権の対抗要件を具備していない賃借人に対し、賃借権の存在を知って土地を譲り受けた者がその賃借権を否定して明渡しを求めることが、権利の濫用または信義則違反に当たるか。
規範
建物保護に関する法律(現:借地借家法10条1項)等の対抗要件制度の趣旨に照らし、不動産の譲受人が譲受時に賃借権の存在を知っていた(悪意であった)としても、そのことのみをもって賃借権の否定を権利の濫用、または信義則違反と解することはできない。
重要事実
上告人(控訴人)は、本件宅地について賃借権を取得したが、土地上に登記した建物を所有しておらず、対抗要件を具備していなかった。その後、被上告人(被控訴人)が本件土地の所有権を取得した。被上告人は、本件土地を買い受ける当時、上告人が本件土地について賃借権を有していることを知っていた(悪意)。上告人は、被上告人が賃借権の存在を知りながらその効力を否定することは権利の濫用であり、信義則に反すると主張して争った。
あてはめ
判決によれば、対抗要件を具備していない賃借権は、第三者に対してその効力を主張できないのが原則である。被上告人が土地買受時に上告人の賃借権を知っていた事実は認められるものの、建物保護法1条(現:借地借家法10条1項)等の法意に照らせば、単なる悪意というだけでは、対抗要件を欠く賃借権の否認を直ちに権利濫用や信義則違反として排斥することはできない。特段、対抗要件の具備を不当に妨害した等の事情も認められない以上、被上告人の請求は正当であると解される。
結論
土地譲受人が賃借権の存在を知っていたとしても、直ちに権利の濫用や信義則に反するとは断定できず、対抗要件のない賃借権は譲受人に対抗できない。
実務上の射程
民法177条等の対抗問題における「背信的悪意者」の議論と並行し、賃借権の対抗力においても単なる悪意だけでは不十分であることを示したもの。司法試験では、対抗要件を欠く者に対する権利主張が信義則等で制限されるのは「背信的悪意」と評価される場合に限られる、という一般論を裏付ける判例として活用すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)842 / 裁判年月日: 昭和40年4月2日 / 結論: 棄却
土地の賃借人は、その土地の上に登記した建物を有しないかぎり、右賃借権の存在を知つて土地所有権を取得した第三者に対しても土地賃借権を主張することができない。
事件番号: 昭和31(オ)190 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の譲受人が、当該不動産に対する賃借権の存在を知って買い受けた場合であっても、当該賃借権が対抗要件を欠いている以上、新所有者が土地の明渡しを求めることは原則として権利の濫用にあたらない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地について賃借権を有していた。被上告人は、上告人が本件土地を占有し賃借権…
事件番号: 昭和39(オ)1311 / 裁判年月日: 昭和40年7月23日 / 結論: 棄却
借地人が現に建物所有の目的で使用している土地を第三者が悪意で取得したときには、借地人は法定の対抗要件を備えなくても、借地権をもつて右悪意の土地取得者に対抗できる、との見解は採用できない。
事件番号: 昭和35(オ)200 / 裁判年月日: 昭和35年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権の対抗要件が具備されていない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けた(悪意)としても、原則として賃借権を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人(被告・賃借人)は土地を賃借しその地上に建物を所有していたが、賃借権の登記や建物についての保存登記を備えていなかった。その後、被上告人(…