借地人が現に建物所有の目的で使用している土地を第三者が悪意で取得したときには、借地人は法定の対抗要件を備えなくても、借地権をもつて右悪意の土地取得者に対抗できる、との見解は採用できない。
借地の悪意の取得者に対しては法定対抗要件を備えなくても借地権を対抗できるか
建物保護法1条
判旨
建物所有を目的とする土地の賃借権者は、対抗要件を備えていない限り、当該土地の取得者が賃借権の存在につき悪意であったとしても、その賃借権を対抗することはできない。
問題の所在(論点)
建物所有目的の土地賃借人が対抗要件(登記または建物登記)を備えていない場合、賃借権につき悪意の土地取得者に対して賃借権を対抗できるか。特に、悪意であることのみをもって対抗を認めるべきか、また権利濫用が成立するかが問題となる。
規範
不動産賃貸借の対抗要件(民法605条、借地借家法10条1項)を欠く賃借人は、原則として第三者に対して賃借権を対抗できない。第三者が賃借権の存在を知っている「悪意」の取得者であっても、背信的悪意者と評価されるような特段の事情がない限り、対抗要件の欠如を主張することは正当な利益を有する者に該当し、賃借権を対抗できないと解するのが相当である。
重要事実
上告人は、建物所有を目的として本件土地を賃借し、現に建物を使用していた。その後、被上告人が本件土地の所有者から土地を買い受けた。上告人は、土地賃借権の対抗要件を備えていなかったが、被上告人は土地取得時に上告人の賃借権の存在につき「悪意」であった。また、被上告人が支払った代価(21万円)が賃借権の付着を前提とした低廉な価格であるか否かが争点となったが、原審はそのような事実は認められないと認定した。
事件番号: 昭和39(オ)842 / 裁判年月日: 昭和40年4月2日 / 結論: 棄却
土地の賃借人は、その土地の上に登記した建物を有しないかぎり、右賃借権の存在を知つて土地所有権を取得した第三者に対しても土地賃借権を主張することができない。
あてはめ
上告人は、現に建物を使用している以上、悪意の取得者には対抗できると主張するが、判例は対抗要件の履践を重視しこれを否定する。本件では、被上告人が賃借権を承継する趣旨で買い受けた事実は認められず、買受価格も賃借権の存在を前提とした不当に低廉なものとはいえない。したがって、単に悪意であるというだけでは、被上告人が上告人に対して建物収去土地明渡を求めることが権利の濫用にあたるとはいえない。
結論
土地賃借人が対抗要件を備えていない以上、たとえ土地取得者が悪意であっても、賃借人はこれに賃借権を対抗できない。また、権利濫用等の特段の事情がない限り、明渡請求は正当である。
実務上の射程
本判決は、不動産二重譲渡における177条の論理と同様に、賃貸借においても「悪意」のみでは対抗を妨げられないことを確認したものである。答案上は、対抗要件を欠く賃借人と新所有者の関係において、背信的悪意者排除の論理(民法1条2項)を用いる際の前提として活用できる。特に「単なる悪意」と「背信的悪意」を峻別する際の基準として重要である。
事件番号: 昭和28(オ)1390 / 裁判年月日: 昭和30年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権および地上建物の登記がない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けたとしても、賃借人はその賃借権を譲受人に対抗することはできない。 第1 事案の概要:上告人Aは本件土地につき賃借権を有していた。その後、被上告人が本件土地を譲り受けたが、Aは本件土地の賃借権の登記も、その地上建物の登…
事件番号: 昭和39(オ)1308 / 裁判年月日: 昭和40年7月23日 / 結論: 棄却
本訴請求は、建物所有者に収去義務の現存する建物の占有者に対し該建物からの退去を求める趣旨と解せられるから、右占有者が右建物の占有関係を離れてその敷地そのものの占有権原を主張しても、抗弁となりえない。
事件番号: 昭和35(オ)200 / 裁判年月日: 昭和35年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権の対抗要件が具備されていない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けた(悪意)としても、原則として賃借権を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人(被告・賃借人)は土地を賃借しその地上に建物を所有していたが、賃借権の登記や建物についての保存登記を備えていなかった。その後、被上告人(…
事件番号: 昭和35(オ)221 / 裁判年月日: 昭和36年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権者が借地法等の対抗要件を具備していない場合、第三者である新所有者の善意・悪意を問わず、借地権を対抗することはできない。 第1 事案の概要:宅地の所有者が交代し、新所有者が旧所有者から宅地を取得した。これに対し、以前から当該宅地を使用していた借地権者が、自らの借地権を新所有者に対して主張した。…