土地の賃借人は、その土地の上に登記した建物を有しないかぎり、右賃借権の存在を知つて土地所有権を取得した第三者に対しても土地賃借権を主張することができない。
土地賃借権の存在を知つて土地を買受けた者に対しては土地上に登記した建物を有しない土地賃借人もこれに土地賃借権を主張しうるか。
建物保護法1条1項
判旨
土地の譲受人が、賃借権の存在を知って土地を取得した場合であっても、賃借人が建物保護法(借地借家法10条1項)に基づく登記を備えていなければ、賃借権を対抗することはできない。
問題の所在(論点)
土地の譲受人が土地賃借権の存在を知って土地を取得した場合(悪意の場合)において、建物保護法1条(借地借家法10条1項)の登記を備えていない賃借人は、当該譲受人に対して賃借権を対抗することができるか。
規範
建物保護法1条(現借地借家法10条1項)によれば、土地賃借権の登記がない場合、その土地上の建物に登記を備えていなければ、土地の譲受人に対して賃借権の効力を生じない。土地賃借権の存在を知って土地を取得した第三者(悪意者)に対しても、建物の登記なくして賃借権を対抗できるとする解釈は認められない。
重要事実
土地賃借人Dは、土地所有者Eから本件土地を借り受けて建物を所有していたが、Eが被上告人に対し本件土地を譲渡し、被上告人が所有権移転登記を経由した時点において、Dは地上建物の登記を備えていなかった。被上告人はDによる土地賃借権の存在を知りながら本件土地を取得していたため、D(およびその承継人たる上告人)は、被上告人に対して賃借権を対抗できると主張した。
事件番号: 昭和39(オ)1311 / 裁判年月日: 昭和40年7月23日 / 結論: 棄却
借地人が現に建物所有の目的で使用している土地を第三者が悪意で取得したときには、借地人は法定の対抗要件を備えなくても、借地権をもつて右悪意の土地取得者に対抗できる、との見解は採用できない。
あてはめ
建物保護法1条は、建物の登記があることを対抗要件として明確に定めている。本件において、被上告人が土地所有権の登記を経由した当時、Dは建物の登記を具備していなかった。上告人側は被上告人が賃借権につき悪意であることを理由に対抗力を主張するが、法の規定を超えて悪意の第三者に対抗できると解すべき法的根拠はない。したがって、法が定める対抗要件を備えていない以上、被上告人に対して賃借権を主張することはできない。
結論
土地の譲受人が悪意であっても、借地人が建物登記を備えていない限り、賃借権を対抗することはできず、土地譲受人との間の賃貸借契約の存在は否定される。
実務上の射程
対抗問題において、背信的悪意者でない限り、単なる悪意者は「第三者」に含まれるとする自由競争の原則を確認したもの。借地借家法10条1項の解釈において、悪意の譲受人に対する対抗力の有無が問われた際の標準的な規範となる。
事件番号: 昭和30(オ)875 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の賃借権者が建物保存登記を備える前に土地の所有権を取得した第三者に対し、特段の事情がない限り賃借権を対抗できず、当該第三者からの土地明渡請求が当然に権利濫用となるわけではない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、昭和24年5月30日に本件土地を買い受け、同日所有権移転登記を完了した。一方、…
事件番号: 昭和35(オ)200 / 裁判年月日: 昭和35年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権の対抗要件が具備されていない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けた(悪意)としても、原則として賃借権を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人(被告・賃借人)は土地を賃借しその地上に建物を所有していたが、賃借権の登記や建物についての保存登記を備えていなかった。その後、被上告人(…
事件番号: 昭和38(オ)1462 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
賃貸人たる地主は、借地人に対し賃料請求権を有するとしても、いまだ借地人から右賃料の支払を受けていないかぎり、借地権の無断譲受人に対し賃料相当の損害賠償請求ができる。
事件番号: 昭和40(オ)1082 / 裁判年月日: 昭和41年8月26日 / 結論: 棄却
抵当権に優先する借地権の法定更新は、右抵当権の実行による差押中においても妨げられるものではない。