判旨
土地の賃借権者が建物保存登記を備える前に土地の所有権を取得した第三者に対し、特段の事情がない限り賃借権を対抗できず、当該第三者からの土地明渡請求が当然に権利濫用となるわけではない。
問題の所在(論点)
土地の譲受人が賃借権の存在を知りながら土地を取得した場合、対抗力を欠く賃借人に対する建物収去土地明渡請求は、信義則違反や権利の濫用として制限されるか。
規範
不動産賃借権は登記(民法605条)又は建物所有を目的とする場合は建物保存登記(建物保護法1条、現行借地借家法10条1項)を備えなければ、その後に物件を取得した第三者に対抗できない。また、対抗力を欠く賃借権者に対する建物収去土地明渡請求が信義則違反又は権利の濫用(民法1条2項、3項)となるには、単に譲受人が賃借権の存在を知っていたというだけでは足りず、請求を拒絶し得る「特段の事情」を要する。
重要事実
被上告人(買主)は、昭和24年5月30日に本件土地を買い受け、同日所有権移転登記を完了した。一方、上告人(賃借人)は当該土地上に建物を所有して飲食店を営んでいたが、その建物について保存登記を経由したのは、被上告人が土地登記を備えた後の同年11月12日であった。上告人は、被上告人が賃借権の存在を知りながら土地を購入したことを理由に、建物収去土地明渡請求は権利の濫用であると主張して争った。
あてはめ
上告人は、被上告人が土地登記を備えた後に建物の保存登記を行っており、民法605条及び建物保護法1条の対抗要件を具備していない。上告人は被上告人が賃借権の存在を認識していたと主張するが、これに関する立証がなされていない。仮に被上告人が賃借権の存在を認識した上で買い受けたとしても、その事実のみでは、対抗力のない賃借人に対する所有権に基づく明渡請求を権利の濫用と評価するには足りない。したがって、請求を拒絶し得る特段の事情は認められない。
結論
被上告人の請求は適法であり、上告人は建物を収去して土地を明け渡さなければならない。
事件番号: 昭和31(オ)465 / 裁判年月日: 昭和32年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地上の建物について登記が存在しない場合には、「建物保護ニ関スル法律」1条による対抗力は認められない。また、建物の収去を求める請求が権利の乱用とされるか否かは、事案の具体的経緯に照らして慎重に判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は土地を賃借しその上に建物を所有していたが、当該建物につい…
実務上の射程
対抗要件を具備していない賃借人が、新所有者からの明渡請求を「権利濫用」として防衛する際のハードルの高さを示している。譲受人が「悪意」であるだけでは足りず、背信的悪意者に類するような特段の事情が必要であることを示唆するものであり、対抗問題における登記の優越性を重視する実務の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和35(オ)200 / 裁判年月日: 昭和35年8月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権の対抗要件が具備されていない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けた(悪意)としても、原則として賃借権を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人(被告・賃借人)は土地を賃借しその地上に建物を所有していたが、賃借権の登記や建物についての保存登記を備えていなかった。その後、被上告人(…
事件番号: 昭和39(オ)842 / 裁判年月日: 昭和40年4月2日 / 結論: 棄却
土地の賃借人は、その土地の上に登記した建物を有しないかぎり、右賃借権の存在を知つて土地所有権を取得した第三者に対しても土地賃借権を主張することができない。
事件番号: 昭和32(オ)879 / 裁判年月日: 昭和34年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を占有するにつき何ら正当な権原を有しない者は、不動産登記法上の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」(民法177条)に当たらない。したがって、正当な権原のない占有者に対しては、登記がなくとも所有権の譲受を対抗できる。 第1 事案の概要:被上告人は、前所有者(前主)から本件土…
事件番号: 昭和32(オ)890 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の明渡請求が権利の乱用に該当するか否かは、具体的な事実関係に基づき、請求によって得られる利益と相手方の被る不利益等を比較衡量して判断されるべきであり、本件においては権利の乱用にはあたらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)らが占有する本件土地につき、被上告人(原告)が土地明渡を求めた事案であ…