判旨
不動産の譲受人が、当該不動産に対する賃借権の存在を知って買い受けた場合であっても、当該賃借権が対抗要件を欠いている以上、新所有者が土地の明渡しを求めることは原則として権利の濫用にあたらない。
問題の所在(論点)
不動産の譲受人が、未登記の賃借権の存在を知りながら当該不動産を買い受け、その後に賃借人に対して明渡しを求めることが、権利の濫用(民法1条3項)に該当するか。
規範
不動産の賃借権につき対抗要件(借地借家法10条1項等)を欠く場合、新所有者は当該不動産の所有権取得をもって賃借人に対抗できるのが原則である。新所有者が賃借権の存在を認識(悪意)していたとしても、そのことのみをもって所有権に基づく明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)になることはない。
重要事実
上告人は、本件土地について賃借権を有していた。被上告人は、上告人が本件土地を占有し賃借権を有していることを知りながら、元の所有者から本件土地を買い受けた。その後、被上告人は新所有者として、賃借権の対抗要件を備えていない上告人に対し、土地の明渡しを求めて提訴した。
あてはめ
本件において、被上告人は上告人の賃借権の存在を知って土地を買い受けている。しかし、上告人の賃借権には対抗要件が備わっていない。民法上の不動産取引における自由競争の範囲内である限り、対抗要件を欠く権利者に対して自らの権利を主張することは正当な権利行使である。したがって、単に賃借権の存在を知っていたという事情だけでは、被上告人による土地明渡請求を公序良俗に反するような特段の事情があるものとはいえず、権利の濫用にはあたらないと解される。
結論
被上告人の明渡請求は権利の濫用にはあたらず、上告人は対抗要件のない賃借権をもって被上告人に対抗できない。
実務上の射程
事件番号: 昭和38(オ)802 / 裁判年月日: 昭和40年2月16日 / 結論: 棄却
土地を買い受ける当時、同土地に他人が貸借権を有することを買主が知つていたという事実だけでは、当該買主がその他人の賃借権を否定することをもつて、直ちに権利の濫用であり、信義則に反するとは断定しえない。
対抗関係(民法177条等)における「悪意者」を排除しない法理を前提とし、権利濫用や信義則による修正が極めて限定的であることを示す判例である。答案上は、単なる悪意ではなく「背信的悪意者」に該当するほどの事情がない限り、明渡請求が肯定される根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)109 / 裁判年月日: 昭和32年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の賃貸借契約その他借地権の発生原因となる合意が存在しない場合には、たとえ地上建物の登記があっても、建物保護法(現・借地借家法10条)による対抗力は認められない。 第1 事案の概要:上告組合(被告)は、被上告人(原告)の所有地について借地権を主張していた。しかし、原審において、被上告人と上告組合…
事件番号: 昭和30(オ)714 / 裁判年月日: 昭和31年5月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決文に訴訟告知に関する事実の記載がないことのみを理由とする上告は、原判決に影響を及ぼす法令の違背を主張するものとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、原審がその判決文の中に訴訟告知に関する事実を記載していないことを理由として、原判決には違法があると主張し、上告を提起した。 第2 問題の所…
事件番号: 昭和28(オ)1390 / 裁判年月日: 昭和30年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃借権および地上建物の登記がない場合、土地譲受人が賃借権の存在を知って譲り受けたとしても、賃借人はその賃借権を譲受人に対抗することはできない。 第1 事案の概要:上告人Aは本件土地につき賃借権を有していた。その後、被上告人が本件土地を譲り受けたが、Aは本件土地の賃借権の登記も、その地上建物の登…