判旨
数人の共同賃借人のうち、一部の者のみが賃貸人と合意解約を行って賃貸借関係から脱退することは、民法544条1項に抵触せず有効である。
問題の所在(論点)
共同賃借人の一部と賃貸人が合意解約を行うことは、解除権の不可分性を定めた民法544条1項に反し、許されないのではないか。
規範
共同賃借人のうち一部の者と賃貸人との間での賃貸借関係の解消(合意解約)は、民法544条1項(解除権の不可分性)の規定に抵触するものではなく、当該特定の賃借人と賃貸人との間において有効に成立し、その賃借人のみを賃貸借関係から脱退させることができる。
重要事実
上告人A(賃貸人)から本件倉庫を賃借していた被上告人(賃借人)および他3名の合計4名の共同賃借人がいた。賃貸人Aから賃貸借の合意解約の申し入れがあった際、被上告人を除く3名はその申し入れを承諾したが、被上告人のみはこれに応じなかった。原審は、当該3名については合意解約が成立して賃貸借関係から脱退したが、被上告人との間では賃貸借関係が依然として持続していると判断したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
民法544条1項は「当事者の一方が数人ある場合において、その一人に対してした解除権の行使は、全員に対してしたものとみなす」旨を規定しているが、本件のような合意解約は当事者間の合意に基づく契約の解消であり、一方的な解除権の行使とは性質を異にする。したがって、共同賃借人の一部が賃貸人と合意して賃貸借関係から脱退することは同条に抵触しない。事実関係によれば、被上告人以外の3名は解約を承諾しており、当該3名のみが脱退し、被上告人との関係が存続するという構成は法的に妨げられない。
結論
共同賃借人の一部による合意解約および脱退は有効である。したがって、被上告人の賃借権は消滅しておらず、原審の判断に違法はない。
事件番号: 昭和33(オ)453 / 裁判年月日: 昭和34年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人による建物の無断増改築等の行為が、賃貸人に対する背信行為と認められる場合には、賃貸借契約の解除が認められる。また、そのような解除に基づく明渡請求は、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)が、賃貸人(被上告人)に無断で本件賃貸借契約の対象に関連して建…
実務上の射程
共同賃借における合意解約の可分性を認めた重要な判例である。答案上では、民法544条1項(解除権の不可分性)の類推適用の可否が問題となる場面で、本判決を根拠に「合意解約は性質上、一方的な解除とは異なるため同条の制約を受けない」旨を論じる際に活用する。特に、共同賃借人の一人が無断転貸等の債務不履行を犯した場合の解除(不可分)と、合意による離脱(可分)を区別して記述する際に有用である。
事件番号: 昭和33(オ)963 / 裁判年月日: 昭和37年3月29日 / 結論: 棄却
適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…