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賃料の不払をもつて賃貸借の基礎たる信頼関係を破壊するものとは認められないとして右不払を理由とする賃貸借契約の解除が許されなかつた事例
民法541条,民法601条
判旨
賃借人に賃料不払の事実がある場合であっても、それが賃貸借の基礎たる相互の信頼関係を破壊するものとはいえない特段の事情があるときは、賃貸人は契約を解除することができない。
問題の所在(論点)
賃借人の賃料不払(債務不履行)がある場合に、民法541条の規定にかかわらず、直ちに契約の解除が認められるか。いわゆる「信頼関係破壊の法理」が適用されるべきかが問題となる。
規範
継続的契約である不動産賃貸借においては、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が基礎となっている。したがって、賃借人に債務不履行(賃料不払等)がある場合でも、その不履行が賃貸借の基礎たる相互の信頼関係を破壊するものとはいえない特段の事情があるときには、賃貸人による解除権の行使は許されない。
重要事実
本件において、被上告人(賃借人)が賃料の支払を拒絶するに至ったが、その背後には原審が認定した具体的な事情(詳細は判決文からは不明)が存在した。上告人(賃貸人)は、この賃料不払を理由として賃貸借契約の解除を主張した。
事件番号: 昭和41(オ)419 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
判示事情(判決理由参照)のあるときは賃料不払を理由とする賃貸借契約の判示解除は信義則に反し許されない。
あてはめ
被上告人が賃料不払に至った事情を総合的に考慮すると、単に「不払がある」という一事のみをもって、直ちに賃貸借契約の基礎となる相互の信頼関係が破壊されたと断ずることは困難である。このような事情のもとでの解除権行使は、信頼関係破壊の法理に照らして制限されるべきである。
結論
本件の賃料不払は、賃貸借の基礎たる相互の信頼関係を破壊するものとはいい難く、これを理由とする賃貸借契約の解除は認められない。
実務上の射程
賃貸借契約の解除事案における「信頼関係破壊の法理」を明示したリーディングケースである。答案上は、賃借人の債務不履行(民法541条・614条等)が成立することを認めた上で、反論として「信頼関係が破壊されていないこと」を具体的事実から検討する際の法的根拠として用いる。
事件番号: 昭和43(オ)749 / 裁判年月日: 昭和44年1月31日 / 結論: 棄却
一、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、これに違反したときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで右特約所定の行為をした場合でも、賃…
事件番号: 昭和43(オ)1091 / 裁判年月日: 昭和44年4月24日 / 結論: 棄却
夫は宅地を賃貸し妻はその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦の離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した場合において、賃貸人は右同居生活および妻の建物所有を知つて夫に宅地を賃貸したものである等の判示事情があるときは、借地権の譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する背信行為とは認められない特別の事情があるというべ…
事件番号: 昭和42(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約…
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。