判示事情(判決理由参照)のあるときは賃料不払を理由とする賃貸借契約の判示解除は信義則に反し許されない。
賃料不払を理由とする家屋賃貸借の解除が信義則に反し許されないものとされた事例
民法541条
判旨
賃貸借契約において賃借人の債務不履行があっても、それが賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には、賃貸人による解除権の行使は信義則上許されない。
問題の所在(論点)
賃借人に賃料支払の遅滞がある場合、賃貸人は無条件に契約を解除できるか。信頼関係破壊の理論が適用され、解除が制限される基準が問題となる。
規範
賃貸借契約は、当事者間の相互の信頼関係を基礎とする継続的契約である。したがって、賃借人に債務不履行の事実がある場合であっても、賃貸人に対する信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難にするに至る程度の不信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は同不履行を理由に契約を解除することはできない。
重要事実
賃借人Dは昭和23年から本件土地を賃借し、地主である賃貸人(上告人)の度重なる一方的な賃料増額要求にも異議なく応じ完納してきた。昭和31年度分賃料につき2万円と合意し、Dが内金1万円を支払った後、Dは脳溢血で倒れ支払猶予を得ていた。上告人は、昭和32年3月30日に突然、合意を超える2万4358円を基準とした残額の支払を催告し、同月末に解除の通知を送付した。病床にあったDはこれに驚き、即座に上告人主張の金額を提供したが、上告人は受領を拒絶。Dはその後、同額を弁済供託した。
あてはめ
Dは8年間にわたり賃料を完納し、一方的な増額にも応じるなど誠意を示しており、不払は脳溢血による病床という止むを得ない事情によるものだった。また、上告人が合意額を超える賃料を基準に解除を通知したのに対し、Dは即座にその全額を提供・供託しており、支払の意思と誠意は明白である。このような状況を熟知していた上告人が、僅かな期間の賃料延滞を理由に解除権を行使することは、賃貸借の基礎となる信頼関係が破壊されたとはいえない特段の事情があるといえる。
結論
本件解除権の行使は信義則に反し許されず、解除の効力は生じない。上告を棄却する。
実務上の射程
信頼関係破壊の理論(背信行為論)のリーディングケース。答案では、債務不履行(民法541条)の成立を確認した上で、解除の効果を否定するための抗弁(信義則)として構成する。賃借人側の誠実な対応や不履行の軽微性、不可抗力的事情の有無を具体的事実から拾う際に活用する。
事件番号: 昭和41(オ)100 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
甲の賃借地が賃借当時から乙会社所有の建物の敷地として利用されている場合でも、乙会社は甲のいわゆる個人会社である等判示の諸事情があるときは、賃貸人に対する背信行為に当たらない特別の事由があり賃貸人が民法第六一二条により賃貸借契約を解除することは許されない。
事件番号: 昭和43(オ)749 / 裁判年月日: 昭和44年1月31日 / 結論: 棄却
一、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、これに違反したときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで右特約所定の行為をした場合でも、賃…
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
事件番号: 昭和42(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約…