建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約の基礎たる相互の信頼関係が破壊されているものとはいえず、このような特段の事情のもとにおいては、賃貸人が、賃料不払を理由として賃貸借契約を解除することは許されない。
土地賃貸借契約の基礎たる相互の信頼関係が破壊されているとはいえない特段の事情があるとして賃料不払を理由とする解除が許されないとされた事例
民法541条,民法601条
判旨
賃料延滞の請求訴訟が調停に付され、解決へ向けて努力が払われている最中に、突如賃料不払を理由としてなされた解除は、信頼関係が破壊されたとはいえず、信義則に反し許されない。
問題の所在(論点)
賃料延滞による履行遅滞がある場合において、調停手続中の解除が信頼関係破壊の法理および信義則により制限されるか。
規範
賃貸借契約の解除が有効となるためには、単に債務不履行があるのみならず、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと認めるに足りる特段の事情が必要である。履行遅滞の状態があっても、その解消に向けた真摯な協議が行われており、当事者間に遅滞解消の予想が立つ場合には、依然として信頼関係は維持されているものと解すべきである。
重要事実
賃借人(被上告人)は、大正時代から続く建物所有目的の土地賃貸借において、手許不如意から長期間賃料を延滞した。賃貸人(上告人ら)は延滞賃料請求訴訟を提起したが、第一回弁論期日にて両者の同意により調停に付された。調停手続中、賃借人は支払の誠意を示し、賃貸人も調停成立を図る態度を継続していたが、合意間近の第三回期日後、賃貸人は突如として賃料不払を理由に本件解除の意思表示を行い、土地明渡を求めた。その後、調停は成立し、賃借人は調停条項に従い遅滞分を全額支払った。
事件番号: 昭和41(オ)419 / 裁判年月日: 昭和41年11月1日 / 結論: 棄却
判示事情(判決理由参照)のあるときは賃料不払を理由とする賃貸借契約の判示解除は信義則に反し許されない。
あてはめ
賃借人は調停手続において誠意をもって解決を図っており、賃貸人も調停成立を期待させる態度を維持していた。賃借人が調停条項に従った履行を予定し、即時の全額支払いをしなかったことには無理からぬ事情がある。このような「遅滞の状態の解消への過程」にある時期に、賃貸人が解除を行うことは、賃借人の期待を裏切るものであり、信頼関係が破壊されたとはいえない。したがって、特段の事情(信頼関係不破壊)が認められ、解除は信義則に反する。
結論
本件解除の意思表示は、信頼関係が破壊されたとはいえない特段の事情があるため、信義則に反し無効である。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理の適用において、不履行の事実だけでなく、解除に至る「経緯」や「解消への努力」を重視する射程を持つ。答案では、単なる不履行の有無だけでなく、交渉経過や債務者の誠実さを「特段の事情」として摘示する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和43(オ)34 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和42(オ)1066 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: 棄却
取立払の定のある賃料について、増額請求を受けた賃借人が、賃貸人の一箇月分の賃料の取立にさいしてその全額の支払を拒絶し、その後引続き適正額の賃料の支払をも拒絶する態度を示している等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人が客観的に適正とされる額によつて五年分の賃料を自己の住所へ持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人の住…
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)
事件番号: 昭和34(オ)166 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人に無断で賃借権を譲渡し又は転貸した場合、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、賃貸人は民法612条に基づき契約を解除できる。 第1 事案の概要:賃借人Dは、賃貸人である被上告人に無断で本件土地の賃借権を譲渡し、またはこれを転貸した。また、Dは賃貸借契約成…