判旨
賃借人が賃貸人に無断で賃借権を譲渡し又は転貸した場合、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、賃貸人は民法612条に基づき契約を解除できる。
問題の所在(論点)
民法612条2項に基づく賃貸借契約の解除において、無断譲渡・転貸の事実がある場合に、常に無条件で解除が認められるか。いわゆる「信頼関係破壊の法理」が適用されるべきかが問題となる。
規範
賃貸不動産の使用者や使用状況は賃貸人の利害や不動産の経済的価値に重大な影響を及ぼす。したがって、無断譲渡・転貸があった場合、原則として解除が認められるが、賃貸人に対する背信行為となすべきでない「他の特段の事情」を認め得る場合には、賃貸人は解除権を行使できない。
重要事実
賃借人Dは、賃貸人である被上告人に無断で本件土地の賃借権を譲渡し、またはこれを転貸した。また、Dは賃貸借契約成立から約4年半後に、約5坪の木造小屋を無断で建築しており、これは契約上の増改築禁止特約に抵触するものであった。被上告人はこれらの行為を理由に賃貸借契約を解除した。
あてはめ
本件において、賃借人Dは無断で賃借権の譲渡または転貸を行っている。不動産の使用者変更は賃貸人の経済的利益に密接に関わるため原則として背信的といえる。また、特約に反する無断建築の事実も存する。これら諸般の事情に照らせば、本件には賃貸人に対する背信行為となすべきでない「特段の事情」は認められない。したがって、解除権の行使は有効であり、権利の濫用にも当たらない。
結論
賃貸人による解除は有効である。特段の事情がない限り、無断譲渡・転貸の事実をもって民法612条による解除が可能である。
実務上の射程
事件番号: 昭和34(オ)386 / 裁判年月日: 昭和36年8月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借地の一部の無断転貸であっても、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、賃貸借契約全部を解除し得る。また、建物買取請求権は転貸人には認められない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)から借り受けていた賃借地の一部を、被上告人の承諾を得ることなく第三者に無断で転貸し…
民法612条の文言上は無断譲渡・転貸があれば直ちに解除できるように見えるが、本判決は「背信行為と認めるに足りない特段の事情」という主観的・評価的要素を組み込み、信頼関係破壊の法理を確立した。答案上は、まず無断譲渡等の事実を指摘し、次いで特段の事情(譲受人との人的関係、不利益の程度等)の有無を検討する枠組みで使用する。
事件番号: 昭和36(オ)1346 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 棄却
賃借土地の三分の一にすぎない土地を無断転貸しても、特別の事由のないかぎり、賃借地全部について契約解除ができる。
事件番号: 昭和42(オ)146 / 裁判年月日: 昭和43年2月1日 / 結論: 棄却
「推認」の語は、証拠によつて認定された間接事実を総合し、経験則を適用して主要事実を認定する場合に用いられる用語法であつて、証明度において劣る趣旨を示すものではない。
事件番号: 昭和36(オ)1325 / 裁判年月日: 昭和39年2月25日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約解除後賃借人およびその転借人に窮状の起ることをもつて、右解除権の行使を権利濫用ということはできない。
事件番号: 昭和37(オ)322 / 裁判年月日: 昭和39年1月16日 / 結論: 棄却
建物所有のための土地賃借人たる母がその所有する建物をその親権に服する子との共有名義とし、これにともない敷地の賃借権の持分を譲渡した場合には、賃借地の利用および賃料支払等の実質関係に前後変りがなければ、右賃借権の持分の譲渡は、これについて賃貸人の承諾がなくても、民法第六一二条による解除の事由とはならない。