建物所有のための土地賃借人たる母がその所有する建物をその親権に服する子との共有名義とし、これにともない敷地の賃借権の持分を譲渡した場合には、賃借地の利用および賃料支払等の実質関係に前後変りがなければ、右賃借権の持分の譲渡は、これについて賃貸人の承諾がなくても、民法第六一二条による解除の事由とはならない。
賃借権の持分の譲渡が民法第六一二条の解除事由にならないとされた事例。
民法612条,民法264条
判旨
賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡又は転貸した場合であっても、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除権は発生しない。
問題の所在(論点)
賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲渡や賃借物の使用(民法612条1項)がある場合、いかなる事情があれば、同条2項に基づく解除権の行使が否定されるか。
規範
民法612条は、賃貸借が当事者間の個人的信頼関係を基礎とするものであることに鑑み、無断譲渡・転貸を禁止し解除権を認めている。しかし、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物を使用させた場合でも、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、同条の法意に照らし、賃貸人は契約を解除することができない。
重要事実
賃借人B1は、土地の賃貸人(上告人)の承諾を得ずに、賃借権の一部持分を自身の親権に服する子(B2、B3)に譲渡した。また、B1が買受けた建物の増築部分(診察室)が夫(B4)の所有名義となっており、夫がこれを使用していた。さらに、B1は訴外Eに対し借地権を譲渡する契約を締結した経緯もあった。賃貸人はこれらが民法612条に抵触するとして、賃貸借契約の解除を主張した。
事件番号: 昭和42(オ)657 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地の一部について借地権を第三者に譲渡した場合において、右譲渡部分が約四二〇平方メートルの借地のうち最も価値の低い部分にあたる約七〇平方メートルにすぎず、賃借人が従来の事情から右譲渡につき賃貸人の承諾が得られるものと思い、その際の名義書替料として相当の金員を賃貸人に支払うことを予定していた等、判示のような…
あてはめ
まず、賃借権の一部持分を親権下の子に譲渡した点について、親子間という密接な身分関係に基づき実質的な支配関係に変化がない以上、原則として背信的行為には当たらない。次に、夫の名義で増築部分(診察室)を所有・使用させている点については、当該建物が賃借人の建物と実質的に一体であり、かつ家族による居住使用の範囲内であれば、賃借権の無断譲渡・転貸には該当せず、用法違反や背信性も認められない。最後に、第三者への譲渡契約締結の事実についても、諸般の事情(判決文からは詳細不明)に照らし、別段の事情がない限り直ちに背信的行為とは評価されない。
結論
本件のような事情の下では、賃貸人に対する背信的行為があるものとは認められないため、民法612条2項に基づく解除は認められない。
実務上の射程
信頼関係破壊の理論を確立したリーディングケースである。答案上は、無断譲渡・転貸の事実を認めた上で、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」の有無を、当事者間の関係(親族・実質的一体性)や使用実態を考慮して検討する際の基準として用いる。
事件番号: 昭和37(オ)1411 / 裁判年月日: 昭和39年9月25日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和39(オ)767 / 裁判年月日: 昭和40年9月21日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地上に所有する建物を同居の孫に贈与したのに伴い借地権を譲渡した場合において、賃貸人が賃借人の娘むこである等判示のような事情があるときは、右譲渡について賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りない特別の事情があるというべきである。
事件番号: 昭和32(オ)411 / 裁判年月日: 昭和33年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が無断で賃借権を譲渡した場合であっても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項による解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)が賃貸人の承諾を得ることなく賃借権を第三者に譲渡した。これに対し、賃貸人は民法612条2項に…
事件番号: 昭和39(オ)697 / 裁判年月日: 昭和40年5月21日 / 結論: 棄却
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除が権利の濫用として許されない場合には、特段の事情がない限り、転借人に対し土地所有権に基づく土地明渡請求は許されない。