取立払の定のある賃料について、増額請求を受けた賃借人が、賃貸人の一箇月分の賃料の取立にさいしてその全額の支払を拒絶し、その後引続き適正額の賃料の支払をも拒絶する態度を示している等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人が客観的に適正とされる額によつて五年分の賃料を自己の住所へ持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人の住所に取立のため赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準備をしその旨を賃貸人に通知して取立を促がす等の措置に出ないで催告期間を徒過したときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる。
取立払の定のある債務について債権者が取立に赴かなくても解除権の行使が許されるとされた事例
民法484条,民法493条,民法541条,民法601条,民法1条2項
判旨
取立債務である賃料について、賃貸人が持参払を求める形式で適正額の催告をした場合、賃借人が支払拒絶の態度を維持し、準備や取立の提供を促す等の措置を講じない限り、信義則上、賃貸人が再度取立に赴かなくとも履行遅滞による解除権が発生する。
問題の所在(論点)
取立債務である賃料の催告において、賃貸人が持参払を求めた場合であっても、賃借人が何ら協力的な措置を講じなければ履行遅滞に基づく解除が認められるか。また、過大な増額請求がなされた場合の賃借人の義務が問われた。
規範
取立債務において、債権者が本来の約定と異なる持参払の形式で催告した場合であっても、債務の同一性を害さず、かつ債権者に催告期間内に受領の意思がないと認められない限り、催告は有効である。この場合、債務者は信義則上、期間内に債務を準備し、債権者に通知して取立を促す等の措置を講じる義務を負い、これを怠れば履行遅滞の責を免れない。
重要事実
賃貸人Xは賃借人Yに対し、取立払の約定で土地を賃貸していたが、賃料増額請求を行い、増額後の金額で取立に赴いた(第一回催告)。Yが支払を全額拒絶し、増額前の額のみを供託し続けて争ったため、Xは賃料請求訴訟を提起。同訴訟の一審判決が適正賃料を認定した後、XはYに対し、判決認容額の支払を持参または送金する方法で求める催告(第二回催告)と解除の意思表示をした。Yは期間内に支払も取立の提供も行わなかった。
事件番号: 昭和46(オ)882 / 裁判年月日: 昭和47年1月20日 / 結論: 棄却
六箇月ごとの取立払の定めのある賃料につき、賃貸人が再三賃借人方に取立に赴きまた督促のため電話したのに対し、賃借人がその事実を知りながら支払の意思を示す態度がなかつたなどの判示の事実関係のもとにおいて、賃貸人が一年七箇月分の賃料を持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人方に取立に赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準…
あてはめ
まず、賃料増額請求に対し請求額が過大であっても、賃借人は客観的に適正な額の提供義務を免れない。本件では、Yは第一回催告時に全額を拒絶し、その後も適正額の支払に協力せず従前の額の供託を継続しており、適正額の賃料につき既に遅滞に陥っていたといえる。次に、第二回催告は適正な金額によるものであり、持参払を求めている点についても、Xに受領意思がないとは認められない。このような経緯に鑑みれば、Yは信義則上、期間内に資金を準備してXに取立を促すべきであった。Yがこの措置を講じなかった以上、Xが改めて取立に赴かなくとも履行遅滞が成立する。
結論
Xによる本件賃貸借契約の解除は有効であり、信義則違反や権利濫用には当たらない。上告棄却。
実務上の射程
取立債務における履行遅滞の成立要件を緩和した事例。債務者が強硬に支払を拒絶している等の事情がある場合、債権者の提供(取立のための訪問)が不完全であっても、信義則を根拠に債務者の受領催告義務を認め、解除を肯定する論法として有用である。
事件番号: 昭和42(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約…
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和30(オ)752 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶するこ…
事件番号: 昭和23(オ)44 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 債務者が弁済のため現金を債権者方に持参してその受領を催告すればこれを債権者の面前に提示しなくても、現実に弁済の提供をしたものとみるのが相当である。 二 債権者が予め弁済の受領を拒み、たとえ債務者が言語上の提供をしてもこれを受領しないことが明白な場合には、債務者は、言語上の提供をしなくても、履行遅滞の責を負わない。