六箇月ごとの取立払の定めのある賃料につき、賃貸人が再三賃借人方に取立に赴きまた督促のため電話したのに対し、賃借人がその事実を知りながら支払の意思を示す態度がなかつたなどの判示の事実関係のもとにおいて、賃貸人が一年七箇月分の賃料を持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人方に取立に赴かなかつたとしても、賃借人が弁済の準備をしその旨を賃貸人に通知して取立を促す等信義則上の措置に出ないで催告期間を徒過したときは、賃貸人は、右催告にかかる賃料の不払を理由に、賃貸借契約を解除することができる。
取立払の定めのある賃料を債権者が取立に赴かなくてもその不払を理由とする賃貸借契約の解除が許されるとされた事例
民法484条,民法493条,民法541条,民法601条,民法1条2項
判旨
取立債務である賃料について、債権者が取立の手段を尽くし債務者が支払に協力しない等の事情がある場合、持参払を求める催告も有効であり、債務者が弁済の準備や通知を怠れば履行遅滞に基づく解除権が発生する。
問題の所在(論点)
取立債務である賃料について、債権者が持参払を求める催告をなした場合に、当該催告が有効な催告として履行遅滞に基づく解除権(民法541条)を発生させるか。
規範
取立債務において、債権者が取立のための一応の手段を尽くし、債務者において支払に協力すべき信義則上の期待がある状況下では、持参払を求める催告であっても、債務の同一性を害したり取立の意思が全くない等の事情がない限り、直ちに無効とはならない。この場合、債務者は信義則上、期間内に債務を準備し、債権者に通知して取立を促す等の措置を講じない限り、履行遅滞の責を免れず、債権者は改めて取立に赴かなくても解除権を行使できる。
重要事実
賃料について6ヶ月ごとに賃借人D宅で支払を受ける取立払の約定があったが、Dは1年半以上にわたり賃料を支払わなかった。賃貸人代理人Eは数回取立に訪れ、電話での督促も行い、Dもこれを知り得る状況にあった。Dは一度詫びに訪れたが、未払賃料を持参せず支払の意思も示さなかった。賃貸人はDに対し、一定期間内に増額後の賃料を持参して支払うよう書面で催告し、期間経過後に解除の意思表示をした。
事件番号: 昭和42(オ)1066 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: 棄却
取立払の定のある賃料について、増額請求を受けた賃借人が、賃貸人の一箇月分の賃料の取立にさいしてその全額の支払を拒絶し、その後引続き適正額の賃料の支払をも拒絶する態度を示している等判示事実関係のもとにおいては、賃貸人が客観的に適正とされる額によつて五年分の賃料を自己の住所へ持参して支払うよう催告し、催告期間内に賃借人の住…
あてはめ
被上告人は数次の訪問や電話により取立手段を一応尽くしており、Dは支払への協力が信義則上期待される状況にありながら支払の意思を示していなかった。本件催告は持参払を求めるものであったが、これによって債務の同一性が害されることはなく、被上告人に取立の意思がないともいえない。したがって、Dは信義則上、催告期間内に資金を準備して取立を促すべきであったのに、これを怠った以上、履行遅滞の責を免れず、被上告人が再度取立に赴く必要もない。
結論
本件催告は解除の前提として有効であり、催告期間の経過および解除の意思表示によって本件賃貸借契約は適法に解除された。
実務上の射程
取立債務において債務者が不誠実な態度をとる場合の例外的な判示である。実務上は、原則として取立債務では債権者の取立行為(またはその提供)が履行遅滞の要件となるが、債務者の非協力的な態度という具体的背景があれば、持参払を求める催告であっても有効性を認め、解除を肯定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和42(オ)1080 / 裁判年月日: 昭和42年12月26日 / 結論: 棄却
借賃支払の催告に定められた金額が、約定の借賃額の四・七倍以上に達するのみならず、その計算の基礎において理由のない主張に基づいているときは、右催告は無効と解すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)752 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶するこ…
事件番号: 昭和42(オ)912 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
建物買取請求権およびその代金との引換給付を求める者の抗弁を第一審の最終口頭弁論期日および原審の第一回口頭弁論期日にいたつてはじめて提出した場合においても、当時賃貸人たる原告と訴外甲との間に別訴で係争土地の所有権の帰属が争われており、右抗弁を提出した被告らが甲から本件土地を賃借した旨主張して争つていた事情があるときは、被…