借賃支払の催告に定められた金額が、約定の借賃額の四・七倍以上に達するのみならず、その計算の基礎において理由のない主張に基づいているときは、右催告は無効と解すべきである。
催告が甚だしく過大であつて無効であるとされた事例
民法541条
判旨
債務の催告において、催告された金額が真実の債務額を著しく超過し、債務者がその支払を拒絶することが信義則上相当と認められる「甚だしい過大催告」に当たる場合、その催告は契約解除の前提としての効力を有しない。
問題の所在(論点)
債務の履行を催告するに際し、真実の債務額を著しく上回る金額を請求する、いわゆる「過大催告」がなされた場合、その催告は有効な解除権発生の要件を満たすか。
規範
債権者が債務不履行を理由として契約を解除するためには、原則として相当の期間を定めて履行を催告しなければならない(民法541条)。もっとも、催告された金額が真実の債務額を著しく超過する「過大催告」である場合において、その超過の程度や態様等に照らし、債務者の履行の意思を不当に阻害するような「甚だしい過大催告」と評価されるときは、当該催告は無効となり、これに基づく解除も認められない。
重要事実
上告人(賃貸人)は、本件土地の賃料が月額2,000円であると主張し、これを基準として賃料の支払を催告した上で、賃貸借契約を解除した。しかし、実際には昭和26年6月の合意により、昭和24年6月に遡って月額800円と定められており、月額2,000円とされた事実は認められなかった。この催告金額と実額の乖離について、原審は「甚だしい過大催告」であると判断した。
事件番号: 昭和38(オ)1164 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には、借地人は借地法第四条第二項による建物買取請求権を有しない。
あてはめ
本件において、上告人が主張する月額2,000円の賃料は、合意された真実の賃料(月額800円)の2.5倍に相当する。このように真実の債務額を大幅に超える請求を基礎とする催告は、債務者に対して適正な履行の機会を与えるものとはいえず、信義則に照らして解除の前提となる催告としての効力を否定すべき「甚だしい過大催告」に該当する。したがって、当該催告に基づく解除はその要件を欠く。
結論
本件の催告は「甚だしい過大催告」として無効であり、契約解除の効力は認められない。よって、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験の答案上、過大催告の有効性は「真実の債務額との差額の程度」および「債務者の履行の意思」に即して論じる。本判例は、差額が著しい場合には催告全体を無効とする構成を採っているが、実務・通説的には、客観的な真実の範囲内で催告として有効(一部有効説)とされるのが原則である。本件のように「甚だしい」と評価される特段の事情がある場合にのみ、例外的に全部無効となる点に注意して論述すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)315 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 棄却
適正賃料額による延滞賃料の合計額が八〇九九円であるのに、催告額が八三八二円四〇銭であつた場合には、右催告は適正の賃料額の限度において有効と解すべきである。
事件番号: 昭和33(オ)657 / 裁判年月日: 昭和36年7月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料の支払催告において、催告額が正当な額を超過していても、債権者に正当額の提供では受領しない意思が明確でない限り、正当額の限度で催告は有効である。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料として2万377円の支払を3日以内に催告した。しかし、当時の賃料統制額…
事件番号: 昭和39(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和40年5月25日 / 結論: 棄却
賃貸建物の延滞賃料と共に賃貸借の存在しない建物占有による損害金とを不可分的に併せてした催告であつても、当該賃貸借契約解除の前提たる催告として有効である。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。