判旨
賃料の支払催告において、催告額が正当な額を超過していても、債権者に正当額の提供では受領しない意思が明確でない限り、正当額の限度で催告は有効である。
問題の所在(論点)
債務の履行催告(民法541条)において、表示された金額が客観的な正当額を超過している場合に、当該催告に基づき解除権が発生するか。
規範
催告において、請求額が正当な債務額を超過している場合であっても、直ちに催告の全部が無効となるわけではない。債権者が、催告額全部の提供がなければ受領しないという意思を明確に表示しているなどの特段の事情がない限り、正当な額の範囲内において催告としての効力を有する。また、催告期間が短期間であっても、直ちに信義則に反して無効になるとは限らない。
重要事実
賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料として2万377円の支払を3日以内に催告した。しかし、当時の賃料統制額に基づき正当な賃料額を計算すると1万4391円であり、催告額は約6000円(約4割)超過していた。賃借人は、この過大催告および短期間の催告期間を理由に、解除の前提となる催告の無効を主張した。
あてはめ
本件では、催告額が正当額を約5985円超過していたが、被上告人(債権者)において正当額の提供があってもこれを受領しないという明確な意思があったとは推認できない。単に催告額が正当額を超過しているという一事をもって、一部提供の受領拒絶の意思を推認することはできない。また、催告期間を3日とした点についても、本件の事実関係に照らせば信義則に反して無効とするほどの事情は認められない。
結論
過大な催告であっても、正当額の限度で有効であり、本件催告に基づく解除は有効である。上告棄却。
実務上の射程
事件番号: 昭和38(オ)1164 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には、借地人は借地法第四条第二項による建物買取請求権を有しない。
過大催告の有効性に関するリーディングケースである。答案上は、(1)過大部分が僅少か、(2)過大部分につき受領拒絶の意思があるか、という二段階で検討する。本判決は後者の基準を示しており、正当額の提供を拒絶する「特段の事情」がない限り、解除を認める方向に働く。ただし、過大の程度が著しく、債務者の履行意欲を削ぐような場合は信義則上無効とされる可能性がある点に注意が必要である。
事件番号: 昭和41(オ)315 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 棄却
適正賃料額による延滞賃料の合計額が八〇九九円であるのに、催告額が八三八二円四〇銭であつた場合には、右催告は適正の賃料額の限度において有効と解すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和42(オ)1080 / 裁判年月日: 昭和42年12月26日 / 結論: 棄却
借賃支払の催告に定められた金額が、約定の借賃額の四・七倍以上に達するのみならず、その計算の基礎において理由のない主張に基づいているときは、右催告は無効と解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)265 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
催告の額が多額に失しても、債権者において客観的に正しい賃料額を受領しない意思が明瞭でない場合においては、債権者は、債務者の履行の提供がないかぎり、契約を解除することができる。