催告の額が多額に失しても、債権者において客観的に正しい賃料額を受領しない意思が明瞭でない場合においては、債権者は、債務者の履行の提供がないかぎり、契約を解除することができる。
過大催告の効力。
民法541条,民法413条
判旨
賃貸人による過大催告であっても、真実の賃料額の範囲内では催告として有効であり、賃借人が真実の賃料額を提供しない限り、賃貸借契約の解除は認められる。
問題の所在(論点)
客観的な債務額を超える「過大催告」がなされた場合に、その催告が有効といえるか。また、賃貸人が増額賃料に固執して旧賃料の受領を拒絶した場合に、賃借人が真実の債務額(合意後の賃料)を提供せずにさらに低額な額を提供したのみで解除を免れうるか。
規範
催告された金額が真実の債務額を超過している場合であっても、それが真実の債務額の範囲内において有効な催告と認められるときは、債務者が真実の債務額を現実に提供しない限り、債務不履行による解除が認められる。また、賃貸人が増額した賃料以外の受領を拒絶していても、真実の賃料額を提供せず、それ以前の低額な旧賃料を提供したに過ぎない場合には、賃貸人が直ちに受領遅滞に陥ることはない。
重要事実
賃貸人Bと賃借人D(死亡、承継人は上告人ら)は、土地賃料を月坪650円とする合意をなし、Dは一定期間支払っていたが、その後不払となった。Bは月坪800円への増額を要求したが協議が整わず、書面で「4月に遡って月坪800円に増額する」旨の通知、過大催告、および不払を条件とする解除の意思表示をした。これに対しDは、合意後の650円ではなく、それ以前の旧賃料である月坪350円のみの支払を提供し、Bがこれを拒絶したため、350円の割合で供託を継続した。
事件番号: 昭和38(オ)1164 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には、借地人は借地法第四条第二項による建物買取請求権を有しない。
あてはめ
Bの催告は月坪800円であり過大であるが、既定の賃料である月坪650円の範囲内では有効な催告である。Dは月坪650円の賃料を現実に提供しておらず、それより低額な350円の提供にとどまっている。Bが350円の受領を拒絶したからといって、直ちに受領遅滞に陥るものではない。さらに、Dが650円を提供してもBが受領しないことが明瞭であったという事情も認められない。したがって、Dが催告の猶予期間内に真実の債務額を支払わなかった以上、履行遅滞に基づく解除は有効である。
結論
本件催告は既定の月坪650円の範囲内で有効であり、賃借人が真実の債務額を提供しなかった以上、賃貸借契約の解除は正当である。
実務上の射程
過大催告の有効性に関するリーディングケースである。実務上、催告額が多少過大であっても、債務者が真実の額を支払う意思がない場合には、客観的な債務額の範囲で催告の効力を認めることができる。ただし、催告額があまりに過大で、債務者が真実の額を特定・提供することが困難な場合には、催告全部が無効となる余地がある点に注意が必要である。
事件番号: 昭和33(オ)657 / 裁判年月日: 昭和36年7月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料の支払催告において、催告額が正当な額を超過していても、債権者に正当額の提供では受領しない意思が明確でない限り、正当額の限度で催告は有効である。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料として2万377円の支払を3日以内に催告した。しかし、当時の賃料統制額…
事件番号: 昭和41(オ)315 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 棄却
適正賃料額による延滞賃料の合計額が八〇九九円であるのに、催告額が八三八二円四〇銭であつた場合には、右催告は適正の賃料額の限度において有効と解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和40年5月25日 / 結論: 棄却
賃貸建物の延滞賃料と共に賃貸借の存在しない建物占有による損害金とを不可分的に併せてした催告であつても、当該賃貸借契約解除の前提たる催告として有効である。
事件番号: 昭和42(オ)1080 / 裁判年月日: 昭和42年12月26日 / 結論: 棄却
借賃支払の催告に定められた金額が、約定の借賃額の四・七倍以上に達するのみならず、その計算の基礎において理由のない主張に基づいているときは、右催告は無効と解すべきである。