適正賃料額による延滞賃料の合計額が八〇九九円であるのに、催告額が八三八二円四〇銭であつた場合には、右催告は適正の賃料額の限度において有効と解すべきである。
債務額をこえる催告が有効と認められた事例
民法541条
判旨
賃貸人が適正な賃料額を超えた金額を催告した場合であっても、その超過額が僅少であり、特段の事情がない限り、適正な賃料額の限度において催告は有効である。
問題の所在(論点)
賃貸人による賃料支払の催告が、客観的な適正額を超過する「過大催告」であった場合、その催告に基づくなされた賃貸借契約の解除は有効か。民法541条の催告の有効性が問題となる。
規範
賃料債務の催告において、催告された金額が真実の債務額を超過している場合であっても、特段の事情のない限り、その催告は適正な賃料額の限度において有効であると解すべきである。したがって、借主が適正額の支払をも怠った場合には、当該催告に基づく解除は有効となる。
重要事実
土地賃貸人である被上告人は、賃借人に対し、昭和25年8月から約1年間の延滞賃料として8,382円40銭の支払を催告した。しかし、実際の適正賃料額は8,099円であり、催告額は283円40銭超過していた。賃借人がこの催告に対して支払を全くしなかったため、賃貸人は賃貸借契約を解除した。
事件番号: 昭和33(オ)657 / 裁判年月日: 昭和36年7月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料の支払催告において、催告額が正当な額を超過していても、債権者に正当額の提供では受領しない意思が明確でない限り、正当額の限度で催告は有効である。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料として2万377円の支払を3日以内に催告した。しかし、当時の賃料統制額…
あてはめ
本件における催告額と適正額の差は283円40銭であり、催告総額(約8,382円)に照らせば超過分は僅少といえる。また、賃借人は適正額の支払すら行っていない。このような状況下では「特段の事情」は認められず、催告は適正額の範囲内で有効である。その有効な催告期間内に不払の状態が継続した以上、債務不履行に基づく解除権が発生する。
結論
被上告人による本件賃貸借契約の解除は有効であり、上告人らの請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
過大催告であっても、債務者が本来支払うべき額を支払う意思がない場合や、超過額が僅少で債務者の信義を害さない場合には有効とされる。実務上は、催告額に争いがある場合でも、少なくとも「争いのない額」や「客観的に正当な額」の範囲で催告の効力を維持できる根拠として引用される。ただし、大幅な超過がある場合には催告が無効となる余地がある点に注意が必要である。
事件番号: 昭和42(オ)1080 / 裁判年月日: 昭和42年12月26日 / 結論: 棄却
借賃支払の催告に定められた金額が、約定の借賃額の四・七倍以上に達するのみならず、その計算の基礎において理由のない主張に基づいているときは、右催告は無効と解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)1164 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には、借地人は借地法第四条第二項による建物買取請求権を有しない。
事件番号: 昭和39(オ)1050 / 裁判年月日: 昭和40年5月25日 / 結論: 棄却
賃貸建物の延滞賃料と共に賃貸借の存在しない建物占有による損害金とを不可分的に併せてした催告であつても、当該賃貸借契約解除の前提たる催告として有効である。
事件番号: 昭和38(オ)265 / 裁判年月日: 昭和39年1月28日 / 結論: 棄却
催告の額が多額に失しても、債権者において客観的に正しい賃料額を受領しない意思が明瞭でない場合においては、債権者は、債務者の履行の提供がないかぎり、契約を解除することができる。