判旨
賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。
問題の所在(論点)
1. 受領拒絶が明らかな場合に、口頭の提供をせずになされた供託が有効か。 2. 催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合に、当該不履行を理由とする解除が認められるか。
規範
1. 債権者があらかじめ受領を拒絶している場合には、債務者は口頭の提供(民法493条但書)をせずとも直ちに供託を行うことができ、その供託は有効な弁済となる。 2. 債務不履行を理由とする解除権の行使が認められるためには、単に履行遅滞があるのみならず、その不履行が信義則上、契約関係を継続し難い程度のものであることを要する。催告額に比して未払額が極めて僅少な場合は、解除権の行使は信義則(民法1条2項)に反し許されない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶することが明らかであったため、現実の提供をすることなく賃料を供託した。賃貸人は賃料総額20,552円24銭の支払を催告したが、被上告人が供託した額は19,766円07銭であり、差額として786円17銭の未払が生じていた。賃貸人はこの未払を理由に賃貸借契約の解除を主張した。
あてはめ
1. 本件では上告人が賃料の受領を拒否することが明らかであったと認められるから、現実の提供をせずになされた供託は有効な弁済となり、履行遅滞は生じない。 2. 未払額である786円17銭は、催告に係る賃料総額20,552円24銭に比して約3.8%に過ぎず、「極めて少額」といえる。このような僅少な未払を理由に解除権を行使することは、紛争の経過や事情の推移に照らせば、誠実信義の原則(信義則)にもとるものと評価される。
結論
本件供託は有効であり、また僅少な未払額を理由とする解除権の行使は信義則に反し無効である。したがって、賃貸借契約の解除は認められない。
事件番号: 昭和30(オ)860 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和…
実務上の射程
賃貸借のような継続的契約において、信頼関係を破壊しない程度の軽微な債務不履行では解除が認められないとする「信頼関係破壊の法理」を、信義則の観点から基礎付ける判例である。答案上は、解除の要件検討において「附随的義務の違反」や「軽微な不履行」が争点となる場面で、解除権行使を制限する論拠として引用すべきである。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和30(オ)362 / 裁判年月日: 昭和32年2月22日 / 結論: 棄却
催告および検索の抗弁権の附著する保証契約上の債権を自働債権とする相殺は、許されない。
事件番号: 昭和32(オ)394 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令の統制額を超える賃料を、自己に支払義務のないことを知りながら支払つた賃借人は、その返還を請求することができない。
事件番号: 昭和38(オ)1462 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
賃貸人たる地主は、借地人に対し賃料請求権を有するとしても、いまだ借地人から右賃料の支払を受けていないかぎり、借地権の無断譲受人に対し賃料相当の損害賠償請求ができる。