地代家賃統制令の統制額を超える賃料を、自己に支払義務のないことを知りながら支払つた賃借人は、その返還を請求することができない。
地代家賃統制令の統制額を超える賃料の支払と非債弁済。
地代家賃統制令3条,民法705条
判旨
賃料支払債務において、賃貸人の受領拒絶が予想される場合であっても、賃借人が提供や供託等の遅滞を免れるための法的手段を講じない限り、債務不履行の責を免れない。
問題の所在(論点)
賃貸人が受領を拒絶する可能性が認められる状況において、賃借人が特段の提供や供託を行わない場合に、賃料支払債務の履行遅滞に基づく解除が認められるか。また、非債弁済にあたる場合の返還請求の可否。
規範
金銭債務において債務不履行責任を免れるためには、原則として弁済の提供(民法492条)が必要である。受領拒絶の蓋然性が高い場合であっても、現実に提供を試みるか、あるいは供託(同494条)等の法的手段を講じて債務の消滅を図らない限り、履行遅滞の責を免れることはできない。
重要事実
賃貸借契約において、賃料不払時に無催告解除を認める特約が存在した。賃借人は賃料の支払を怠ったが、賃貸人が受領を拒む可能性があったことを理由に、自らの履行遅滞を否定しようとした。なお、賃借人は債務がないと知りながら支払った金員の返還も求めていた。
事件番号: 昭和35(オ)630 / 裁判年月日: 昭和37年5月25日 / 結論: 棄却
催告の過大が特に著しい程度でなく、支払義務のある限度の弁済の提供に対する債権者の受領拒絶も考えられない事情のもとでは、過大催告は必しも無効でない。
あてはめ
賃借人が賃料を持参すれば賃貸人が受領した可能性が否定できない以上、単に受領拒絶が予想されるという主観的事情のみでは足りない。賃借人が自ら賃料支払の遅滞を免れるに足りるだけの適法な提供や供託等の法的手段を講じていない本件では、客観的に履行遅滞の状態にあり、無催告解除の特約に基づく解除は有効である。また、義務がないと知りながら支払った金員については、民法705条の非債弁済に該当し、返還請求は認められない。
結論
賃借人は債務不履行の責を免れず、本件解除は有効である。また、支払済みの金員についても非債弁済として返還請求は認められない。
実務上の射程
受領拒絶が確実な場合の提供の程度(口頭の提供で足りる場合等)を議論する際の前段階として、何らアクションを起こさない場合の不履行責任を確定させる文脈で使用する。無催告解除特約の効力と履行遅滞の関係を整理する際にも有用である。
事件番号: 昭和30(オ)752 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶するこ…
事件番号: 昭和34(オ)768 / 裁判年月日: 昭和37年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地賃貸借契約において建物の種類や構造を制限する特約がある場合、賃借人がこれに違反して建物を建築したときは、当該特約違反を理由とする賃貸借契約の解除が有効に認められる。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間で土地賃貸借契約を締結した際、建物の種類や構造を制限する旨の特約(…
事件番号: 昭和41(オ)1285 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 棄却
借地権の無断譲渡がされた場合、それが賃貸人に対する賃借人の背信行為となるのは、賃貸人が譲受人の賃料の支払能力、態度に不安を感じる場合にかぎられない。
事件番号: 昭和30(オ)860 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和…