判旨
賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。
問題の所在(論点)
賃貸人が繰り返し賃料の受領を拒絶している状況において、賃借人が口頭の提供を経ずに行った弁済供託が有効か。また、それにより賃料延滞の不履行が否定され、解除が制限されるか。
規範
債務者が弁済の準備をしてこれを受領すべき旨を催告する「口頭の提供」すら不要とされるのは、債権者があらかじめ受領を拒絶し、かつ債務者が弁済のために必要な準備をしただけでは足りず、債権者の受領拒絶の意思が明確かつ強固であって、口頭の提供をしても受領されないことが確実と認められる場合である。このような状況下で行われた弁済供託は有効であり、債務不履行責任を免れる。
重要事実
賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和28年10月、賃借人が妻を通じて賃料2000円を提供したが、賃貸人は再度受領を拒絶した。その後、賃借人は賃料を供託した。賃貸人は、昭和29年5月の口頭弁論期日において、賃料不払を理由とした契約解除の意思表示を行った。
あてはめ
本件では、賃貸人が数年にわたり継続して賃料の受領を拒絶しており、賃借人が重ねて提供を試みても受領しない意思が客観的に明瞭であったといえる。このような場合、賃借人がさらに現実の提供や口頭の提供を繰り返すことは無意味である。したがって、賃借人が行った弁済供託は適法かつ有効であり、解除の意思表示がなされた昭和29年5月当時において、賃借人に賃料延滞の事実は存在しないと評価される。
結論
賃貸人による賃料不払を理由とした解除の意思表示は、有効な供託によって延滞状態が解消されているため、その効力を生じない。
事件番号: 昭和30(オ)752 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶するこ…
実務上の射程
受領拒絶が明確な場合における供託の有効性と、それに伴う履行遅滞の解消を認めた事例である。答案上は、民法493条但書(口頭の提供)の要否や、494条(供託)の要件を検討する際、受領拒絶の「明確性・強固性」を事実認定から導く際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(オ)44 / 裁判年月日: 昭和23年12月14日 / 結論: 棄却
一 債務者が弁済のため現金を債権者方に持参してその受領を催告すればこれを債権者の面前に提示しなくても、現実に弁済の提供をしたものとみるのが相当である。 二 債権者が予め弁済の受領を拒み、たとえ債務者が言語上の提供をしてもこれを受領しないことが明白な場合には、債務者は、言語上の提供をしなくても、履行遅滞の責を負わない。
事件番号: 昭和30(オ)846 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務が存在しないことを知りながら任意に弁済を行った場合、民法705条の非債弁済に該当し、不当利得返還請求権は否定される。公定賃料を超過する賃料の支払いであっても、支払義務がないことを認識していれば同条が適用される。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、賃貸人との間において約定の賃料を支払う旨の契…
事件番号: 昭和33(オ)963 / 裁判年月日: 昭和37年3月29日 / 結論: 棄却
適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。