賃貸人が一たん賃料の受領を拒絶した場合であつても、特段の事情がないかぎり賃借人はその後支払うべき賃料につき弁済の提供をしない以上債務不履行の責を免れない。
賃料の受領拒絶があつた場合とその後の賃料についての弁済提供の要否
民法493条,民法540条
判旨
賃借人が一箇月分の賃料の受領を拒絶されたからといって、特段の事情がない限り、当然にその後の賃料を提供しても受領を拒絶されたものと推定することはできない。ただし、賃貸人の受領拒絶が、爾後の賃料をも受領しないという明確な意思表示を伴うものであれば、債務者は提供をせずとも履行遅滞の責を負わない。
問題の所在(論点)
継続的契約である賃貸借において、一部の賃料受領拒絶があった場合、賃借人はその後の賃料について提供(民法493条但書)をせずとも履行遅滞の責を免れるか。特に、受領拒絶の事実から将来の受領拒絶が当然に推定されるか。
規範
債務者が提供を免れ、履行遅滞の責を負わないとされるためには、債権者の受領拒絶が「爾後の債務を受領しないという明確な意思の表示」を伴うものであることを要する。単に一回分の賃料受領を拒絶した事実や、その拒絶に正当事由がないというだけでは、将来の提供が当然に無駄になるとは推定できず、提供義務を免れない。
重要事実
賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)の建物賃貸借契約において、賃借人は昭和28年5月分の賃料を持参提供したが、賃貸人は受領を拒絶した。賃借人は5・6月分を供託したが、同年7月分以降の賃料については支払も提供も行わなかった。賃貸人は同年12月、賃料不払を理由に解除の意思表示をした。原審は、一度受領拒絶があった以上、その後に事情変更がない限り、以後の提供も拒絶されたものと推定すべきであるとして解除を認めなかった。
事件番号: 昭和30(オ)860 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和…
あてはめ
本件では、賃貸人が昭和28年5月分の賃料受領を拒絶した事実は認められる。しかし、定期に支払われるべき賃料については、賃貸人が翻意して受領する可能性も否定できない。したがって、前回の拒絶に正当事由がないことのみをもって、以後の提供も無駄に帰すと推定することはできない。本件の受領拒絶が「爾後の賃料をも受領しないという明確な意思表示」といえるほどの内容であったか否かを検討せずに、不履行の責を負わないとした原審の判断は速断であり、理由不備がある。
結論
賃借人が爾後の提供を省略して履行遅滞を免れるためには、賃貸人の拒絶が将来にわたる明確な受領拒絶意思を含むものでなければならない。単なる一度の受領拒絶のみでは提供義務は免除されず、賃料不払による解除が認められる余地がある。
実務上の射程
民法493条但書の「あらかじめ受領を拒んだ」場合の提供省略の要件を厳格に解した判例である。継続的給付において、過去の拒絶から将来の拒絶を安易に推定することを否定しており、答案上は、債権者の拒絶がいかなる態様・内容であったか(一回的か、確定的な将来拒絶か)を具体的事実から認定する際の基準として用いる。
事件番号: 昭和42(オ)1424 / 裁判年月日: 昭和44年5月1日 / 結論: 棄却
弁済の準備ができない経済状態にあるため言語上の提供もできない債務者は、債権者が弁済を受領しない意思が明確な場合であつても、弁済の提供をしないかぎり、債務不履行の責を免れない。