建物の賃貸人が現実に提供された賃料の受領を拒絶したときは、特段の事情がないかぎり、その後において提供されるべき賃料についても、受領拒絶の意思を明確にしたものと解すべきであり、右賃貸人が賃借人の賃料の不払を理由として契約を解除するためには、単に賃料の支払を催告するだけでは足りず、その前提として、受領拒絶の態度を改め、以後賃料を提供されれば確実にこれを受領すべき旨を表示する等、自己の受領遅滞を解消させるための措置を講じなければならない。
建物の賃貸人が現実に提供された賃料の受領を拒絶した場合とその後における賃料不払を理由とする契約の解除
民法413条,民法493条
判旨
賃貸人が賃貸借の終了を主張して受領を拒絶するなど、弁済を受領しない意思が明確な場合、賃借人は言語上の提供をせずとも債務不履行の責を免れる。また、受領遅滞にある賃貸人が解除のための催告を行うには、自己の受領遅滞を解消させる措置を講じる必要がある。
問題の所在(論点)
賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人は口頭の提供なしに債務不履行責任を免れるか。また、受領遅滞にある賃貸人がなした催告および解除の意思表示の有効性がいかなる要件で決まるか(民法412条、541条)。
規範
1. 債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は口頭の提供(民法493条但書)をしなくても債務不履行の責を免れる。 2. 継続的債務において、ある時点での受領拒絶は、特段の事情がない限り、その後の債務についても受領拒絶の意思を明確にしたものと解される。 3. 受領遅滞にある債権者が解除の前提として催告をするには、以後弁済を提供すれば確実に受領する旨を表示する等、受領遅滞を解消させるための措置を講じなければならない。
重要事実
賃借人(上告人)が賃料を持参したが、賃貸人(被上告人)は期間満了による終了を主張して受領を拒絶し、明渡しを要求した。その後も賃借人が催告に応じて持参した際、賃貸人の母が本人への支払を求めて拒絶した。賃借人は賃貸人の所在を照会したが回答はなかった。数年後、賃貸人は延滞賃料の催告と解除の意思表示をしたが、受領遅滞を解消する措置は講じていなかった。
あてはめ
被上告人は賃貸借の終了を主張して受領を拒絶しており、その後の賃料についても受領拒絶の意思が明確であったといえる。また、催告に応じて持参した賃料を母が拒絶した点につき、生活上の緊密性から本人と同視しうる事情があれば、重ねて受領拒絶の意思が明確になったといえる。そうである以上、上告人は口頭の提供をせずとも履行遅滞に陥らない。したがって、被上告人が受領遅滞を解消する措置を講じずにした催告に基づく解除は、債務不履行を前提とし得ず無効である。
結論
被上告人の受領遅滞を解消するための措置がない限り、上告人に債務不履行は成立せず、本件解除の意思表示は効力を生じない。
実務上の射程
賃貸借等の継続的契約において、受領拒絶の意思が明確な場合の「口頭の提供不要」の法理を、解除の有効要件としての「催告の適法性」に結びつけた重要な判例。答案では、相手方が不当な理由で受領を拒んでいる場合の履行遅滞の成否、および信義則上求められる催告前の「受領準備の通知」の必要性を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和29(オ)522 / 裁判年月日: 昭和32年6月5日 / 結論: 棄却
債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は言語上の提供をしなくても債務不履行の責を免れるものと解すべきである。