弁済の準備ができない経済状態にあるため言語上の提供もできない債務者は、債権者が弁済を受領しない意思が明確な場合であつても、弁済の提供をしないかぎり、債務不履行の責を免れない。
債権者において弁済を受領しない意思が明確な場合でも弁済の提供をしない債務者は債務不履行の責を免れないとされた事例
民法493条
判旨
債権者が弁済の受領を拒絶する意思が明確な場合であっても、債務者が経済状態の不良により弁済の準備ができない状態にあるときは、言語上の提供をせずとも債務不履行の責を免れることはできない。
問題の所在(論点)
債権者(賃貸人)に受領拒絶の明確な意思がある場合、債務者(賃借人)が経済的窮乏により弁済の準備すらできない状態であっても、言語上の提供を省略することで債務不履行(賃料支払遅滞)責任を免れることができるか。民法493条但書の「言語上の提供」の要否が問題となる。
規範
弁済に関して債務者がなすべき準備の程度と債権者のなすべき協力の程度は、信義則に従って相関的に決せられるべきである。債権者の受領拒絶の意思が明確な場合に言語上の提供が不要とされるのは、信義則上、債務者の準備の程度の軽減を図る趣旨である。したがって、債務者が経済状態の不良のため弁済の準備ができない状態にあるときは、そもそも債権者に協力を要求すべきものではないから、弁済の提供(言語上の提供を含む)をしないことによって債務不履行の責を免れることはできない。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃貸借契約の期間満了を主張して賃借人(上告会社)による賃料の受領を拒絶し続けていた。上告会社は当初賃料を供託していたが、営業不振により倒産・解散し、清算過程において取引上の債務や税金の支払を優先した結果、賃料を支払う経済的余力を失った。そのため、上告会社はその後約1年間にわたり弁済の準備も言語上の提供も行わなかった。これに対し、賃貸人は無催告解除の特約に基づき契約を解除した。
あてはめ
被上告人には受領拒絶の明確な意思が認められる。しかし、上告会社は倒産・解散の清算過程において賃料支払の経済的余力がなく、弁済の準備すらできない状態であった。弁済の準備ができない債務者は、信義則上、債権者に協力を要求できる立場になく、受領拒絶の事実があっても準備の程度の軽減を受けることはできない。したがって、言語上の提供すら行わなかった上告会社は、賃料債務について履行遅滞の責を免れないと評価される。
結論
上告会社は債務不履行の責を免れない。したがって、本件特約に基づく賃貸借契約の解除は有効である。
実務上の射程
債権者の受領拒絶がある場合に「提供不要」とする法理は、債務者に「弁済の意思と能力」があることを前提とする。司法試験では、受領拒絶がある場合の弁済の提供(493条但書)を論じる際、単に受領拒絶の事実のみならず、債務者の提供能力という主観的・経済的側面も検討すべきであることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和42(オ)803 / 裁判年月日: 昭和45年8月20日 / 結論: 破棄差戻
建物の賃貸人が現実に提供された賃料の受領を拒絶したときは、特段の事情がないかぎり、その後において提供されるべき賃料についても、受領拒絶の意思を明確にしたものと解すべきであり、右賃貸人が賃借人の賃料の不払を理由として契約を解除するためには、単に賃料の支払を催告するだけでは足りず、その前提として、受領拒絶の態度を改め、以後…