催告および検索の抗弁権の附著する保証契約上の債権を自働債権とする相殺は、許されない。
抗弁権の附著する債権を自働債権とする相殺の許否
民法505条
判旨
催告及び検索の抗弁権が付着する保証債権を自働債権として相殺することは、相手方の抗弁権行使の機会を不当に奪うため許されない。
問題の所在(論点)
催告及び検索の抗弁権が付着する保証債権を自働債権として、他の債務と相殺することの可否が、民法の相殺の禁止ないし制限の法理として問題となる。
規範
催告及び検索の抗弁権(民法452条、453条)を有する保証債務を自働債権とし、受働債権と相殺することはできない。なぜなら、相殺者の一方的な意思表示によって相殺を認めると、受働債権の債権者(主債務の債権者)が本来有している、保証債務の履行を拒絶できるという抗弁権行使の機会を、その意思に反して喪失させる結果を招くからである。
重要事実
被上告人(賃貸人)は、上告人(賃借人)に対し、賃料不払い等を理由として土地賃貸借契約の解除を求めて提訴した。これに対し上告人は、被上告人に対して有する保証債権(催告・検索の抗弁権が付着するもの)を自働債権として、賃料債務等と相殺する旨の主張をした。原審は、このような抗弁権の付着する債権を自働債権とする相殺は認められないと判断し、賃貸借の解除を認めたため、上告人が上告した。
事件番号: 昭和30(オ)752 / 裁判年月日: 昭和32年9月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が賃料の受領をあらかじめ拒絶している場合には、口頭の提供をせずになされた供託も有効であり、また、催告された賃料額に比して未払額が極めて少額である場合には、信義則上、当該債務不履行を理由とする解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、賃貸人(上告人)が賃料の受領を拒絶するこ…
あてはめ
本件において、上告人が相殺に供しようとした自働債権は保証債権であり、これには民法上の催告及び検索の抗弁権が付着している。もしこの相殺を認めれば、本来であれば被上告人が「まず主債務者に催告せよ」あるいは「主債務者の財産に執行せよ」と主張して履行を拒めるはずの機会を、上告人の一方的な相殺通知のみによって奪うことになる。これは保証債務の補充性に反し、相手方の法的地位を不当に害するものといえる。したがって、当該相殺の意思表示は効力を生じない。
結論
保証債権を自働債権とする相殺は許されない。原審が相殺を認めず解除を妥当とした判断に違法はなく、本件上告は棄却される。
実務上の射程
自働債権に抗弁権が付着している場合の相殺禁止の原則(「抗弁権のある債権を自働債権とする相殺の禁止」)を明確にした判例である。答案上は、民法505条の相殺の要件(相殺適状)に関連し、性質上相殺を許さない場合に該当する理由として、相手方の抗弁権保護を挙げる際に引用する。特に保証人側からの相殺ではなく、本件のように保証債権を有する者が自ら相殺を援用する場面での制約として重要である。
事件番号: 昭和38(オ)1462 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
賃貸人たる地主は、借地人に対し賃料請求権を有するとしても、いまだ借地人から右賃料の支払を受けていないかぎり、借地権の無断譲受人に対し賃料相当の損害賠償請求ができる。
事件番号: 昭和32(オ)394 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令の統制額を超える賃料を、自己に支払義務のないことを知りながら支払つた賃借人は、その返還を請求することができない。
事件番号: 昭和32(オ)763 / 裁判年月日: 昭和33年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権の譲渡について賃役人が承諾を求められた際、これを峻拒した事実は、明示的・黙示的な承諾を否定する有力な証拠となる。事実認定において、賃貸人の承諾が認められない以上、無断譲渡としての法的効力を認めるべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃借権の譲受人と推認される)は、被上告人(賃貸人)に対して…